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下北沢のカウンターバーですれ違った二人のラーメン職人

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朝4時にその人は店にやってきた。外は雨が降っていた。

「おぅ、女の子いないなぁ」

その時、お客さんが10人も座れない小さなカウンターバーには、僕とマスターしかいなかった。

彼はビールを一口飲むと「女の子の声がする」と外に出ていった。

5分ほどすると戻ってきた。

「誰もいなかった」

そりゃそうだと思う。もう4時だし、雨も降ってるし、そもそも僕には女の子の声なんて全く聞こえなかった。

この落ち着かない男は、かつてテレビによく出ていた有名なラーメン店「Mr.なん○んかんでん」だ。現在は閉店してしまったが、かつてはラーメン界を席巻した時代の寵児だった男である。

それにしても変な人である。ひたすら聞こえもしない女の子の声をたよりに外に行ってしまう。

とんでもないハンターである。

2回ほど「女の子の声がいる」と外に出た後に、戻ってきてお会計をして出ていった。

バーにやってきた男は富山ブラックを頼んだ

僕はその日も下北沢のカウンタ―バーにいた。

マスターは気まぐれで料理を出していたのだが、その時期は富山ブラックを出していた。

実家が富山のため、親に頼んで近所のスーパーから買って送ってもらっているらしい。

当時、まだ東京で富山ブラックを出している店は少なかったので、珍しかったのだろう。意外な人物が店にやってきた。

その時は無職だったが、後に新宿、渋谷に何店舗もお店を出す「凪」のマスターである。

その男はバーに入ってきて、いきなりラーメンを頼んだ。

料理が出てくるのを待っている間に雑談をする。

「いまはずっとやっていたお店を辞めて、研究と食べ歩きの日々で今日も4店舗行ってきた」という。

「もうすぐ新宿でお店をやる、もっともっと増やしていきますよ」という彼は、高い壁を超えるために深くしゃがんでいるとき、という感じで、初めて会った人だが「あぁ、この人はやるだろうな」と思った。それぐらい自信に満ちていた。

マスターが出した富山ブラックは、正直、既製品であり、食べ終わった後に一言も感想も言わない彼を前にマスターも降参して思わず「すいません、スーパーで売っているものです」と頭を下げていた。

そんなことは大きな問題ではなかったのだろう。それについて何も言わなかった。

きっと彼はこの国のラーメンの美味しいと言われる端から端までを行ってみたかったのだろう。ここまで行ったらどぎつい、ここまでなら美味しい。

許容範囲の確認が終わった彼は、とびきり尖ったラーメンを売りに一気に店舗を拡大し、昨年はコンビニに彼の作ったラーメンが並んでいた。

かれこそ10年ほど前の話だ。

自分のいまをどこに投資するのか

2人に会ったのは、同じ頃だったが、あれから月日は経ち、だいぶ立場は開いている。うさぎと亀、アリとキリギリス。そういう教訓じみたことを言うつもりは無い。

ただ、ダメになった人は、びっくりするほどダメな人であり、1ミリも尊敬できず、のし上がった人は初対面で分かるほど、普通の人と違うオーラが出ていた。「あぁ、この人はすぐに有名になって、いま、たまたま隣にいるだけだ」と結果を見なくても分かった。

下北沢ですれ違った2人のラーメン職人のことを、たまに思い出す。

一つこういう言い方ができると思う。

消えた職人は過去に生きていた。伸びた人は未来に向かって生きていた。

あれだけの成功を納めれば過去に生きてもいいかもしれない。でも、僕らはボブデュランがいう、今の第1位が次にはびりっカスになる時代に生きている。止まってはいけないのだ。

今をどこに投資するか。

そういう話だと思う。