きなこなん式

大悟の笑いの秘密がよく分かる「千鳥のニッポンハッピーチャンネル」がすごい!

千鳥の笑いの中毒性はなんだろう、とずっと思っていた。

漫才はもちろん「キングちゃん」や「相席食堂」において、彼らは抜群の面白さを発揮している。

ドキュメンタルで松本人志も言及していたように、のぶのツッコミは、現在のお笑い界のトップクラスだろう。

一方、芸人らしい芸人として、酒、たばこを愛し、志村けんに愛された男、大悟の面白さというのは、ちょっと異色だ。

お笑いを、計算と天然に分けると、大悟は天然ではないと思う。計算でやっている。だが、その計算とは、近代お笑いの基礎となる「緊張の緩和」「フリと落ち」の2つだけでは説明できないものがあるのだ。

そこから僕は大悟のお笑いの「ブラックボックス」は一体なんだろう、と思っていた。

そして、その答えはアマゾンプライムビデオの「千鳥のニッポンハッピーチャンネル」でやっと答えが分かった。

その答えについて書く前に、まずは番組について説明しよう。

大悟がめちゃくちゃなことをする番組

「千鳥のニッポンハッピーチャンネル」とは、千鳥が日本をハッピーにする、というコンセプトのもとに、大悟が作った映像を、ノブとゲスト2人が見る、というスタイルになっている。

大悟が作った映像について、のぶは事前に聞いておらず、さすがのツッコミを連発していく。

ちなみに現在のエピソード9までの内容は

・トレンディードラマ(1,2、3)

・大悟が除霊をする(4、5)

・ドキュメンタリードラマ(6、7)

・グルメ番組(8,9)

・お笑いサミット(10)

という内容になっている。

それぞれツッコミどころが豊富にあるのだが、ずっと見ているうちに中毒のように面白くなっていく。気付いたら、また千鳥の世界に引き込まれてしまう。

それはくっきーのようなサイコな世界とも違う、大悟の独特の笑いに引き込まれてしまうのだ。

日本人は繰り返しが嫌い

「音楽的にみると日本人は繰り返しが好きではないのかもしれない」

そのフレーズは、小泉文夫さんという、1960年代から1970年代に活躍した民俗音楽専門の学者が書いた「音楽の根源にあるもの」に書かれていた。

この話は非常に示唆に富んでいると思う。そして、これは音楽の話だけではないと思う。

よく海外サッカーのニュースなどで10年前、15年前の小野伸二や中村俊輔のスーパープレーを褒められることがある。そういったものを見ると、ヨーロッパの人々は昔の栄光、かついての良かったプレーを繰り返し語ることで定着させることに熱心だな、と思う。

翻って日本で、15年前の外国人プレイヤーのスーパープレーを褒めることはない。それは「繰り返し」を嫌う文化の差なのではないか。

黒人音楽はその根底に、同じ音を繰り返しながら変化させることでグルーブを生み出していくというものがある。それはブルースであり、ジャズであり、ヒップホップに共通する要素だ。それに対して日本人は、ヒップホップに対してもメロディーを求める傾向がある。そこには、日本人の「繰り返しを嫌うDNA」が関係あるのかもしれない。

だが、大悟の笑いは違う。この「千鳥のニッポンハッピーチャンネル」では、徹底した繰り返しが何度も行われる。

例えば、大悟とスタッフのやりとりでは

大悟)これから行く洋食屋のエビフライはあるか?

スタッフ)はい、洋食屋なのであると思います。

大悟)そのエビフライには頭が付いているのか?

スタッフ)いや、そこまでは確認してないです

大悟)それは電話で確認した方が良くない? エビの頭が付いているなら付いている、と店員は言うし、付いてないなら付いてない、って言うから

スタッフ)そうですね。

大悟)そうやろ。エビの頭が付いてないのに、付いているとは言わないだろ、ウソになるからな。だから、エビの頭が付いているときは付いているというし、付いてない時は付いてないというから。それが2匹だと多分付いてないよな。1匹だと付いていることが多いよな。

と頭がおかしくなるほど、エビの頭のくだりを繰り返すのだ。

ノブもゲストのこじるりも「なんなのこれ?」「何の会話?」「いつまで言うの?」というが、何度も何度も繰り返すのだ。

反復がもつ中毒性。つまらないフレーズをずっということで、いつの間にか面白くなってしまう、修学旅行の夜のような不思議な笑い。

それを大悟はひたすら追求しているのだ。

決して爆笑する笑いではない。でも、教科書に沿った笑いとは違う。唯一無二の笑いがそこにはある。

千鳥のすごさ、というのはノブの天下逸品のツッコミと、大悟の人間力が生み出すコメントにあると思っていた。そして、その底は、まるで深い深い井戸のように、ずっと見えなかった。

だが、自らが企画して、好き勝手やった映像を見たときに、初めて大悟のすごみが分かった。

自分が「面白い」と感じることに視聴者を引き寄せる力が半端ないのだ。そして、そこでグルーブを生み出せる。絶対負けないにらめっこのチャンピオンのように、面白くなかったはずの表情をずっと見ているうちに、気付くとこちらが笑ってしまうような強さがあるのだ。

又吉の「読み解く力」もすごい

この番組を見て感心するのは、大悟のすごさだけではない。

もう一つすごいのが、又吉の「読み解く力」だ。

例えば、大悟が作った「ロングロード」というトレンディドラマで、志村けんの腰につける白鳥が登場して、視聴者がみんな「え~」となっている時に、「白鳥は渡り鳥だから、ロングロードというタイトルとかけているんですね」とか、ストーリーの中の1話分にまるごとヒロインが登場しなければ「彼女がいないことで、逆に彼女の存在感が増した」とか、主人公が働く会社が、ラブホテルのシステム部分を作っている会社であることから、「恋愛がうまく行くことによって利益が出る会社だから、社員の恋愛を応援するんですね」など、設定1つ1つを考察して、なんとなく正解っぽい答えを導き出してしまうのだ。

ノブが「そりゃ、芥川賞とるわ!すごいな!」と言うが、本当に又吉の読み解く力のすごさには驚かされる。

そんな大悟の独特の笑いと、又吉のすごさを感じられる、「千鳥のニッポンハッピーチャンネル」はけっこうお薦め。

気になった方は アマゾンプライムビデオ

でぜひ見てみてください。