きなこなん式

立川談春と古川周賢さんの対談は人材育成のヒントがいっぱいだった

「いまこいつが一番上手いんじゃないですか」と名人・立川談志にいわせた落語家、立川談春。
そんな談春が「師匠の談志に近いものを感じる」というのが、禅のお坊さんである古川周賢さんだった。

 

談春が談志に聞けなかったこと。それは「師匠として弟子を育てる方法」だった。

 

確かに談春は、弟子の廃業が多い(9人中8人が廃業)。

 

「情熱大陸」でも弟子にする人間に厳しいことを言っている様子が見てとれた。

 

どうすれば人を育てられるのか。修業の意味とは一体何なのか。そんな対談番組「SWITCHインタビュー 達人達(たち)」が2016年5月7日にNHKで放送されていた。

 

その内容が非常にビジネスにおいても役立ちそうだったので、取り出して紹介してみようと思う。

手抜きか、最善をつくしたかは自分だけが知っている

 

冒頭では談春が周賢さんに禅の修行について質問していく。その中で出たのが手抜きと知恵についての話題だった。

 

談春:修業というのは1日24時間で、やれるだけの量をやらせるんですか?あるいはとんでもない量をやらされるんですか?
周賢:例えば、本当に一生懸命やって1時間の仕事を大体40~45分位でやらされる。そうすると、死に物狂いでやってもかろうじて間に合わないから、そこで知恵使いますね

 

談春:知恵って言葉使いましたね。知恵ってのはある意味で「要領」と受け取っていい。だけど修行中で年が若いから「要領というのは罪悪である」。あるいはそう思わなきゃいけないために修行していると、世間は思いがちですよね。

 

周賢:そうです。私もそのイメージがとれなくて、人一倍先輩に迷惑をかけたんです。だから目的は何かって、禅寺の掃除の目的はきれいにすることじゃない、修行ですよね。だから、例えばこの天井を全部綺麗に拭けって言うんですよ、毎日拭く必要なんかないのに毎日拭けってことなんですよ、禅寺って。だから修業のためなんですよ。でも、私は拭けと言われたら本当に全部拭かなきゃいけない、という頭が取れないものですから、不可能なことを死に物狂いでやっても間に合わないから怒られ、毎日怒られるんですよ。知恵を使わないから。知恵使ったらごまかすと思いこんでいた

 

じゃあ、知恵とズルの違いはどこにあるかというと、手抜きをしたらズルですからね。じゃあ、手抜きをどうやって認定するかっていうと、本人が決める。誰でも「あ、手抜きしたな」ってわかるじゃないですか。だけど、手抜きじゃなくて、どっかで割り切ってその時間の中での最大限の修業として自分の枠ができれば、その瞬間に、ズルじゃないですよね。

 

談春:枠を自分で決めれば、手抜きか最善を尽くしたかどうかは、自分では分かりますよね。でも、これは本来分かりませんよね。なんで分からないかというと、ズルと要領は違うってのと同じで、結局、自分で決めるわけですよね。

 

周賢:そうです。人によって、どこまで頑張るかの基準は違ってくる。それがその人の持ってる生き様。この程度で(手を下の方にして)折り合いをつけちゃう人は、所詮その程度だし、ここまで頑張れる人は(手を胸のあたりに)そこまでがんばれるし、そのために道場で365日、24時間体制で何年も修業する。

 

談春:そうすると45分でできちゃうもんですか?

 

周賢:それはできるもんですよ。できたという状態がどういうもんかという「像」が見えれば完成する。

スピードと質の優先順位とは?

周賢:修行の最初はああだ、こうだ言わずにさっさとやれと。道場入ったら最初にいわれることは「早よせい!」しか言われない。最初の半年ぐらいは「早よせい、早よせい」しか言われない。とにかくなんでもいいから早くしろって。それで、早くできるようになったら「早くやるだけじゃないぞ」と。今度は丁寧にやることを覚えて、丁寧にできるようになると「バカ、先のことを考えてやれ」と段取りを考えるように言われる。

 

談春:そうか、まず早さ。段階があるんですね。

 

周賢:ただ、落語家の修業を知ると、我々の方が有利だなと思います。というのは、道場という場所は複数の集団であって色々な人がいるんです。優しい者、厳しい者。そうすると、こっちの人がひたすら自分のやり方で追い詰めていくと、この人間はつぶれかかるんですよ。でも、中にはものすごく優しい人がいて、「おまえ、やれよ」と、先輩が後輩を助けるのと同じ仕組みですよね。それがものすごくたくさんの人間で、しかも助け合わないと生きていけない仕組みなんですよ、自給自足だから。例えば、薪を割る時も丸太棒で二人でのこぎりを動かすから二人いないとできないんですよ。だから助け合わないと生きていけないように作ってあるんですよね。

 

談春:ということはつぶしてしまって、一人だと薪も切れないという大前提があると。

 

周賢:そうです。だから本人に「どんなに殴られても続ける」意志があるなら仲間として絶対にがんばって支えます。

という内容だった。

なんだか、けっこう僕自身、年齢を重ねて自分個人の成長を考えると同時に人を育てることが求められ、ぐちゃぐちゃしていたものが整理された気がした。

 

ここで出てきた人材育成において重要なポイントは以下3点だと思う。

・要領よくやってズルするのかを決めるのは自分。最初に自分でゴールを設定することが大事

・教える手順は、スピード、質、段取りの順番

・ついてこれない人材について、ただ厳しく接するのではなく、厳しい人、優しい人、いろいろな人がいて、つぶれないようにみんなで支える(本人に「続ける意志」があるなら)

 

これは周賢さんというよりは、禅寺という数百年も続く道場で培ってきた育成のノウハウである。その辺の企業とは蓄積が違うだけに聞く価値がある内容だと思う。

 

ちなみに古川周賢さんご自身はまだ著作なども出していないようで、知名度はそれほどではないが、東大を出て29歳で出家する、という異色の経歴を持つだけに、これからさらに注目される人物だと思う。

 

そんな二人の対談に興味をもった人は下記に全編があるので、ぜひ見てみてはいかがだろうか。

https://www.youtube.com/watch?v=auXXKZvJLHc