きなこなん式

ドラマ「火花」があまりに素晴らしかったので全力で感想を書いてみる

 

2015年、又吉の書いた小説『火花』が芥川賞を受賞すると、次に話題になったのはどこのテレビ局がドラマ化するのか、ということだった。

 

激しい争奪戦の末、ドラマ化の権利を手にしたのは、定額制動画配信サービスで日本に参入したばかりのNetflixだった。

 

外資の資金力に吉本がひかれたのか、なんて憶測も飛び交う中で、ドラマ制作は着々と進み、2016年に公開された。

 

そんな、この作品を見てみようと思ったのは、東野のある発言だった。

 

「吉本はええ仕事をした」「売れへん芸人は絶対見たらいけない」

 

この言葉で急に気になって、 Netflixを契約して見ることにした。

 

結論は「傑作」だった。

 

こんな切ないドラマは久々に見た。有料の動画サービスだからと躊躇している人は、 1ヵ月650円(SD画質)だからレンタルと思えば安いものだ(なんなら1ヵ月無料体験中に見ることもできると思う)。

 

それでは、どこが凄かったかについて、解説してみたいと思う。

 

タイアップを排除した俳優陣が素晴らしい

火花は、若手お笑いコンビ「スパークス」の徳永と、「あほんだら」の神谷さんの友情を描いた作品であり、この二人を誰が演じるのかに注目が集まっていたが、 徳永を演じたのは林遣都。神谷は波岡一喜だった。

 

知名度抜群!という二人ではなかったが、その演技は素晴らしかった。特に 林遣都が良かった。

 

よく作品に入り込んで、その人自身になる役者を「憑依型」と呼び、さいきんでは「トットてれび」で、満島ひかりで完璧な憑依ぶりを見せ付けたが、本作の 林遣都 はそれ以上の憑依ぶりだった。

 

正直、僕は初めて彼の演技を見たが、あまりに彼の中に又吉が入り込み過ぎて怖くなってしまった。話の間、声のトーンすべてが又吉で「それっぽい」でなく、完全に憑依していた。

 

そして、 神谷役の波岡一喜の演技も抜群に良かった。かっこつける先輩、破天荒な芸人、借金だからのだらしない男。その全てを完璧に演じきっていた。

 

そして、その神谷の彼女役の女性も、はかない感じで良いなぁ~と思ったら、さいきんよく名前を聞く門脇麦だった。

 

とにかく見てほしいのは、第8話の自分の漫才を神谷さんと神谷さんの彼女と3人で見るときの林遣都の演技である。

 

先輩よりも先にテレビに出たのに、自分を褒めてくれない、苛立ちと悔しさが入り混じった涙の演技は2分以上続いた。

 

こんな泣いている場面で切なくなったのは、北の国からのじゅんくんの涙以来である。

 

そして、解散漫才の演技も抜群に良かった。本当に涙が止まらなかった。

 

 民放ではなくNetflixだからできたこと

第8話の泣くシーンもそうだが、かなりたっぷりと時間を使って撮影している。地上波のドラマの撮影の仕方ではなく、映画を見ているような撮り方だった。

 

このドラマを見てつくづく感じたのは「純粋に作品に向き合うために Netflixと手を組んだんだな」ということだった。

 

地上波のテレビであれば、キャストについては、ジャニーズであったり、吉本であったり、あるいはスタッフについてもテレビ慣れしたプロデューサーだったりが、手垢の着いた手法で作品を仕上げてきただろう。

 

だが、 Netflixという外資の下で作ったことで、そういうしがらみと関係なく、純粋に一番ふさわしいと思う役者を選び、最高だと思うスタッフで作ったように感じた。

 

結果としてNetflixだから実現できた作品だと思う。

 

名作「火花」を別の角度から浮かび上がらせる

小説は雑誌掲載時に読んで「素晴らしい」と感じて、発売日に買って読んだが、当時の印象は、徳永と神谷のやりとりが深いなぁ、というものだった。

 

だが、このドラマを見てつくづく感じのは、これは「芸人残酷物語」だったんだな、ということだった。

 

お互いが売れなくて、笑いながら酒を飲んで遊んでいるうちは良いが、一方だけが売れていったり、芸人が解散をしたり、借金を重ねたり、そういうなると関係はおかしくなる。そういう負の要素が8~10話でぶわっと噴出してきた。

 

東野が「第7話から先が見れない」と言ったのは、そういう意味だ。

 

芸人にとって辛いことベスト3をあげろと言えば、同期が売れること、後輩が売れること、解散すること、だと思う。そのすべてが8~10話に凝縮されているのだ。

 

僕は8話から10話を見ている間、ほとんどずっと泣いていた。

 

そして最後に音楽も抜群に良かった。

 

ポイント、ポイントで流れる斉藤和義の「空に星が綺麗」。そして、エンディングテーマのOKAMOTO’Sの「BROTHER」。これが作品を決定づけたように思う。

 

OKAMOTO’Sのベースは浜ちゃんの長男なので、ひねくれた見方をすれば、そこをコネと見ることもできるが、それよりも純粋に作品のイメージと合わせて選ばれたんだと思う。

 

芸人の世界が好きだったり、火花を読んだ人の中でまだ見ていない人がいれば、すごく勿体ない。

 

小説の映像化でここまで成功した例も珍しいぐらいの傑作だと思う。ぜひ見てほしい作品だ。

 

ちなみにNetflixで契約しようとすると、1画面、SD画質の月額650円と2画面HD画質月額950円のどちらにしようか迷うと思うが、スマホで見るなら、SDで十分だと思う。大画面で楽しむならHDの方が良いだろう。ただ、 大画面で見たとしてもSD=DVDレベルなので、そこまでひどくはないので、後は財布との相談だと思う。

 

小説も未読の方はぜひ!

 

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