きなこなん式

落語家の真打披露パーティーは何をやるの?行ってきたのでその様子を書いてみる

二つ目時代から仲良くしている落語家がいる。

その人が真打になる、ということで「パーティーにぜひ」という招待状が届いた。

面白そうなので行ってみることにしたが、よく考えたら真打披露パーティーって何やるんだ? 式次第が予想がつかない。そもそもご祝儀はいくら持って行くんだ、どんな人が来るんだ? 全く知らない。

ネットで「真打披露パーティー ご祝儀 相場」など調べても出てこないのだ。あまりにレアケース過ぎるのかもしれない。もう本当に探り探り行ってきたので、その内容をまとめてみたいと思う。

落語家とどこで出会うのか

そもそも落語家とどのように出会うのか。たまに聞かれるので流れを書くと、僕の場合はmixiだった。

流れとしては以下の感じだ。

新宿末広亭の深夜寄席に何度か足を運ぶ

圧倒的に上手い人がいる

検索したらmixiにいたので「面白かったです!」とメッセージを送る

今度「勉強会にぜひ」と言われる。

勉強会ってなんだろう、受験生かな、と思いながら、恐る恐る行ってみたら、勉強はそっちではなく後輩が先に舞台に出る時に「勉強させていただきます」というニュアンスと一緒で「修行中だけど、落語会をやってみる」的なものらしい。

これが1000円ぐらいで、3席ぐらいやるので、けっこう楽しめる。

内容的には、落語1人+ゲスト1人(同期か後輩)あと受付1人とか、そんな感じだ。

場所は落語協会の2階だったり、小さなライブハウスみたいなところだったりする。

これが終わると「打ち上げ行く人~」という呼びかけが落語家からある。

そこに参加して恐縮しながら「あのネタ面白いですね。オリジナルですか?」とか話しかける。

それを2、3回やると向こうも顔を覚えてくれる。さらに落語家は二つ目時代はヒマなので二人で飲みに行ったりもできる。

僕は周りに「落語が聞きたい」という友達がいたので、家が広い人のところに20~30人ぐらいを集めて、一人1000円もらって落語会を定期的にやっていた。

何度か話してて分かってきたのは、落語家は「贔屓かブレーンが欲しい」ということ。

落語界というのは、基本年寄りの世界なので、20代の定期的に自分を見ている人の意見というのは、貴重なのだろう。非常に耳を傾けてもらえた気がする。

一方で贔屓というのも確実に存在する。

例えば、真打披露の時に落語家が150万ぐらいする着物を着るとする。それを用意するのは本人ではない、贔屓筋なのである。贔屓の人が10万×15人で払ったりするのだ。

それは真打の人が登場した勉強会で言われた。

「この後輩をご贔屓くださり、ありがとうございます。彼はあと8年で真打になります。どうかみなさま、月1万円でも貯金していただき、真打になった時にお祝いをあげてください、よろしくお願いします」と言われたのだ。

ここにいる人は、そういうお願いの対象なんだ、と驚いてしまったが、芸能の世界はそういうものなのだ。「あいつの帯は俺があげたやつだよ」という自慢のために何百万払う人がいる世界なのだ

ということで、落語家は、勉強会、打ち上げを繰り返しながら、花魁のように贔屓を増やしていく。しかもできるだけ太いお客をつかまなくてはいけない。落語が上手いだけでは「我が暮らし楽にならず」なのだ。

誰の話をしているのか

今回のテーマで行くと、誰か、というのはあまり重要でないのだが、いちおう書いておくと、鈴々舎馬風一門の、鈴々舎馬るこ師匠のことである。

師匠の馬風さんというのは、人間国宝になったおにぎりみたいな顔の柳家小さん師匠の弟子で、当時は談志も弟子だったので、鈴々舎は立川流とも仲が良いという珍しい一門になっている。

馬風さんの落語は一回しか見たことが無いが、ひたすら身内の悪口を言って帰っていった。でも、この悪口と言うのが、まぁ面白い。こんな面白い悪口が世の中にあるのか、というぐらい笑った。もともと「上の人が死んだら、俺が落語協会の会長になる」という「落語協会会長への道」を歌っていた人だから、シャレがきついタイプである。いわゆる寄席キング的な、場の空気を全部持って行く圧倒的な爆笑王である。

馬るこさん(こう呼んでいたので、ここからはこの呼び方で)は、この人の弟子だった。馬るこさんは当時いた二つ目の中で、僕が見る限り、飛び抜けて上手かった。あと、オリジナリティがあった。僕が見た時は「イタコ捜査官メロディー」というネタをよくやっていた。これが好きだった。

あと勉強会では「ジョジョの奇妙なちりとてちん」とか「ライオンキング息子」など、現代的な改作が多かった。

落語以外に、寄席でいきなり「今日結婚します!! 婚姻届投げるので受け取った人結婚してください」と言い出して、客席に投げたらおっさんが受け取って場が変な空気になる、とか、そういう破天荒なことをやる人だった。

だが、ある時から本格派になっていった。

その変化があまり面白くなかった僕は、ある飲みの時に「昔のジャンプネタとか好きでしたけどね」と言ったら「寄席に来る人はその層じゃないんですよ」と言われて納得したことがある。

そう、落語のボリュームゾーンは60代以上であり、そこをターゲットにした落語に切り替えるのは正解なのである。

ということで、ターゲットを変えてNHK新人賞もとって、笑点にも若手として出るようになった。若手の中では注目株ぐらいまでは来ていると思う。

ちなみに、僕がこの人すごい!と思った点は次の2点になる。1つは音の良さ。落語は物語ではあるが、一方で江戸弁の世界、耳に気持ちが良い音を味わうものでもある。心地よい落語のリズムというものがある。その音としての落語が馬るこさんは飛び抜けて良いのだ。これはたぶん三味線をやっていたからだと思う。

もう一つは、くすぐりのセンスの良さ。くすぐりとは、落語の合間に入れるギャグのことだが、馬るこさんは「ジブリネタ」とか「芸能ネタ」など旬な話題を入れるのが上手い。そのチョイスも秀逸だ。

人柄は大人しい。基本静かな人である。だが、その中でもたまに覗く狂気と計算高さがある。計算高いと言うと、悪い印象を受けるが、マーケティング分析的な計算の高さであり、いまの場の状況と自分と未来をきっちり計算できる人だった。

そんな馬るこさんから招待状が届いた。

ちなみにこれは2017年3月の話である。すぐ書くのは色々影響あるかもと思って寝かしておいた。

真打披露公演に行ってみた

ご祝儀については、事前に本人に聞いてみると「結婚式と同じぐらいで」と言われた。

会場は新宿のホテルの大ホールだった。服装も結婚式ぐらいのフォーマルな感じで行ってみた。

会場のある階につくと、受付があって5人ぐらいの女性が人がささっと処理してくれる。

芸能人がいっぱいいる、とかそういう世界ではない。法被を着た一門の若手の落語家と、知らないおじさん、おばさんが集まっていた。

入口に行くと、馬風さんと、馬るこさんが出迎えてくれた。中に入ると、200人は入るであろう体育館のような大きなスペースである。番号が書かれた席に座る。本当に結婚式みたいだ。周りには知らないおじさん、おばさん。

そして、結婚式のように料理が運ばれてくる。フランス料理だろうか、なかなか美味しい。

ここからは記憶を頼りに過剰書きで進める。

ちなみに馬るこさんは、中央線に住んでおり、あの辺の知り合いが多い。中央線の高円寺、阿佐ヶ谷、荻窪あたりはライブハウスやイベントが多く、そこで活動しているアーティストはいっぱいいる。ローカル地下芸人と言っても良い。そういう人も来ていた。

なによりも印象に残ったのがおかみさんの挨拶だった。普通は師匠の挨拶だが、馬風師匠が「馬るこは俺よりもおかみさんだ」とおかみさんが挨拶に立つことになったのだ。

「この子は最初本当に汚れたTシャツ着てて、頭もチリチリで」という出会いから、だんだん一人前になって、今では師匠孝行をしてくれるという立身出世話を涙ながらに語り、思わずこちらももらい泣きしてしまった。

馬るこさんの名前の由来は、母を訪ねて三千里のマルコから来ている。幼い頃に母親が馬るこさんを置いて「ちょっと行ってくるね」と橋を渡って行ってしまって、それ以来会えない、という切ない話があり、それを聞いたおかみさんが「お前はマルコだね、馬るこにしよう」と名付けてくれたという。通常落語家は前座、二つ目、真打と名前を変えるタイミングがあるが、馬るこさんは改名せず、真打になっても馬るこで行くことにした。その理由は今も「母を訪ねている」からだろう。

そんな馬るこの名づけ親であり、東京のお母さんとしてのおかみさんの深い愛情を感じたスピーチだった。

そして、真打披露パーティーというのは、落語家にとって前座で3~4年、二つ目で約10年という長い長い修業が終わる、卒業式なんだと、おかみさんの涙を見ながら思った。

こうして約2時間半のパーティーが終わった。ここから半年ぐらいは、各寄席でトリを取らせてもらえる真打披露興行があるが、その後は実力とヨイショの世界となる。

その点、馬るこさんは末広亭の席亭との飲み会で「深夜のカラオケで必死にタンバリンを叩いた」結果、トリを務めるなど、順調に足場を固めている。

後は上の方がだんだん減ってくれば、活躍の場が広がるだろう。

ということで、真打披露パーティーについて書いてみた。これが一般的かは分からないが、ざっくり書くと、偉い人挨拶→余興している間に席を回る→鏡割り→師匠のあいさつという流れになる。

お祝いの3万円と言う金額が果たして合っていたかは分からない。末広がりとか、なんかにかけた方が良かったかもしれないな、と後から思った。

いやぁ~貴重な経験だった。色々なところで話したので元を取った気がする。

もしもあなたが急に真打披露パーティーに呼ばれた時の参考になれば幸いである。そんなことあるかは知らんけど。