2017年に待ちに待った1stアルバム「MODERN TIMES」をリリースした、PUNPEE(パンピー)。
各地でソールドアウトになったアルバムのリリースパーティーも終わり、スカパーの授賞式やラジオのスタートなど、ちょっとした狂乱のようなものが落ちついた、2018年の5月、ワンマンライブが新木場のSTUDIO COAST開催された。
2,400人収容という、アルバムを1枚だけ出したラッパーには大きすぎるようなスペースだが、ツイッターで見る限り、一般販売のチケットは2秒で完売したという(僕は先行販売でたまたま当選した)。
ライムスターのウタさんが「この世代のスーパースター」とPUNPEEを評していたが、まさにその通りの人気ぶりだった。
時間ギリギリに会場に入るとすでに人がぎっしり。20代の男女が中心で男女比は男性6、女性4ぐらいだろうか。隣には50代らしき女性がいて、ファンの幅広さを感じた。
ステージ上には大きな映像を写すモニターが設置されており、会場に向かうオープニング映像が流れて、映像と同じ衣装で登場したPUNPEEに大きな歓声が上がる。いよいよステージが始まった。
アルバムの構成に沿ったオープンニング
Lovely Man、Happy Mealとアルバム「MODERN TIMES」の構成に沿ってステージが進む。
そもそもアルバムの1、2、3曲目までの構成が、
1、年をとったPUNPEEが過去のアルバムを振り返る
2、現在のPUNPEEは二日酔いで起きてすぐに吐いているダメなやつ。子供に「早く起きろ〜」と言われるけど、ダラダラしてる。暇だからアルバム作ろうかなぁ。(Lovely Man)。
2、やっとシャッキとしてラップを始める(「Happy Meal」)
という流れなので、ライブのスタートにそのまま当てはめても成り立つ流れなのだ。
そして、目が覚めたPUNPEEが次に選んだのが「夜を使い果たして」だった。
ファンの中でも人気が高い曲をここで持ってきたのかぁと盛り上がる。
画面にはMVが流れる。かつて「俺に似てる人を見つけたので出演をお願いした」と話していた、年をとったPUNPEE役の人が実は父親だった、という映像を見ながら手を振る。もう楽しい。
ハイライトを中心に
このライブはDVDになるそうなので、ここからは個人的ハイライトを中心に。
・ここ数年で亡くなった偉大なラッパー、デブラージ、ECD、FABBの3人の曲を使う。
・最初はデブラージがいたブッダブランドの「人間発電所」の「天まで飛ばそう!」から「宇宙に行く」をライブで初披露(リリースパーティーではやらなかった)。曲に入る前に「サビの声が出るかなぁ」と不安を口にしており、実際ちょっと高い声が出てなかったが、観客が歌ってフォロー。
・PSGの3人が揃っただけで嬉しいのに「神様」に加えて、曽我部恵一さんとの「今夜はブギーバック」的な曲「サマーシンフォニー」を曽我部さん本人+PSGで聞けた。
・弟についてPUNPEEは「あいつは良いやつだ、実家に一緒に住んでいる頃、寝てたら毛布かけてくれた」
・PSGの3人で「なんかやる?聖徳太子フリースタイルやる?知ってる?」(punpee)、「しらねぇ」(二人)というやりとりがよかった。フリースタイルブームとは、違うところにいる人たち。
・「Pride」でフューチャリングしているISSUGIが登場。「1曲で帰るのも」と呼び止めて、もう1曲、とFABBの「SEASON」のビートでISSUGIがワンバースをラップ。PUNPEEも同じビートで「PSG現る」をフリースタイル風にラップする。
ECDとPUNPEEとツボイさんについて
という感じで、良い流れが続く。
この少し前ぐらいから、DJの編成が気になってきた。
PUNPEEの右側にツボイさんがいる。
ここから少し自分の脳内会話。
そもそも、原島みちよしさんがバックDJとしていて、隣にスクラッチ専門のDJがいて、ツボイさんがいる意味は何だろう?アルバムのミキシングを担当したから?それにしてもツボイさんは楽しそうに動くなぁ。ECDとのコンビの頃みたいだなぁ。
ECDかぁ。そういえば、PUNPEEは亡くなった時に公式コメント出してないけど、YoutubeにはECDがデモがらみっぽい野外ライブで、PUNPEEがDJを担当している映像があるし、ECDが入院している頃、PUNPEEのアルバム買って「あの戦争で亡くなった芸術家が何人いただろう」というリリックを評価していた。ECDがいなくなって相棒を失ったツボイさんをPUNPEEが引き取るのだろうか。それは無いかぁ。
そんなことを考えていた。すると、PUNPEEがステージの前の方にある機材を触り始めた。
「SP-1200という機材がありまして、これが30、40万ぐらいするやつでなかなか買えなくて、でも、ツボイさんにいったら「持ってるよ!」って貸してくれました」
というMCを経て、PUNPEEが機材をいじり始める。太いビートが響く。
「ちょっと練習しました」と音を出し始める、ダダッ、ダダッっていうイントロを聞いてすぐに気づく。ECDの名曲「ロンリーガール」のイントロだ。マジか!!となった瞬間曲が始まる。PUNPEEが生でSP-1200をいじりながら、ロンリーガールを演奏(?)する。思わず、目の前の景色が霞む。うるっと来てしまった。
そういえば、PUNPEEとECDは、加山雄三のコンピレーションアルバムで、それぞれ別の曲で参加していて、その関係もあってか、加山雄三が友達と一緒に出演するテレビ番組にPUNPEEが呼ばれてラップした後、そのラストシーンでPUNPEEのTシャツの胸には「ECD IN THE PLACE TO BE」の文字があって、日本語ラップファンの感動を呼んだ。
ECDが2018年の1月に亡くなって4ヶ月の月日が経ち、少しずつ人々の記憶から薄れていく中で、自分のライブで一番緊張する「生演奏」という形で追悼する。
さらにロンリーガールの自分なりのラップもよかった。
当時のロンリーガールは、センター街に集まって、援助交際をする女子高生に向けたラップだったが、PUNPEEは「ツイッター炎上、援助」とか、「インスタで自撮り」を入れたり、またmetoo運動の発端となった、ハリウッドのプロデューサー、ワインスタインの名前を出したり、「自分では楽しんでいるつもりが、実は搾取される女子」というラップの骨格を残しながら、すっかり現代風にアレンジしていた。
RAINの質問を打ち切る
後半も基本はアルバムに沿ってライブは進んで行く。
タイムマシーンに乗ってで盛り上がった後に、Bitch PlanetでフューチャリングのRAU DEFが登場。
RAU DEFとPUNPEEだと名曲「FREEZE!!」聞きたいなぁと思っていたら、ペラペラとマイペースに話すRAU DEFが何か暴露しそうな予感を感じたのか、「自由に話すとよくないな、あれだ、もしも君はってやつやろう」と「FREEZE!!」へ。
盛り上がる観客。しかも、RAU DEFがちょっと歌詞を忘れた時に、ラップをしてさりげなくフォローするPUNPEE。人柄の良さを感じる。
続いての質問コーナーではPSG向けにSLACKが2曲ほど作っているなど、色々と貴重な話があったっが、見所は「アルバムの中でRainって曲が好きなんですけど」という質問を「ああ、もういいです」って打ち切った時の会場の「公然の秘密」感が良かった。punpeeの性格上聞かれたらウソはつけないから、打ち切ったのだろう(分からない人はRainの歌を歌ってる人についてググってください)。
そして、ミルフィーユフィクション、お隣さんみたいに凡人、オールディーズで締める。
アンコールでギター
アンコールの暗闇の中で人2,3人動いていた。何だろう、と思ったらギターを持ったPUNPEEがまさかの弾き語り、そのか細い声に笑い声が起こる。この時間は何だろう、意外と長いなと思う。
かつて「ジュディマリみたいな」バンドを組んでいて、オーディションの日に寝坊して首になったPUNPEEだが、それにしても何だか残念な仕上がり。
「もう1曲やろうかな」の声に原島さんが「正気か!」っていう完璧なツッコミ。
そして、もうすぐ発売になる、ブルーハーツトリビュートの曲。これもフックが素晴らしい。
「じゃあ、ギター片付けてくるわ」と舞台袖に行って、戻って来たPUNPEEの背がでかい。
よく見るとシルエットも違う。服は同じで髪型も同じだけど、ん??と思ったら、tofubeatsだった。観客が一気に前に行く。
そして「水星」が始まった。多分、ここがこの日のピークだったと思う。
東のPUNPEE、西のtofubeatsという言葉をネット上で見たことがあるが、その二人の共演。興奮しないわけがない。しかもこの曲をネット上で聞いて気に入ったテレビのプロデューサーが「僕の番組の音楽を担当してくれない?」と言って始まったのが、「水曜日のダウンタウン」である。
PUNPEEにとって「人生を変えた1曲」と言っていいだろう。
次に船が沈んだから、やるか迷ったという「お嫁においで」を経て、本当のラスト「ヒーロー」で締めた。
2時間半。がっつりやった。近くにいた人が「全部やるじゃん、全部じゃん」と言ってたが、本当に聞きたい曲を全部やった感じ。
全ての音が終わって、画面にエンドロールが流れる。
「エンドロールまで席を立つな」という歌詞を思い出した観客が、じっと見守る光景もまた良かったーー。
まるで最高のフルコースを食べた後のような完璧な構成。もうナプキンで口を拭いて、シェフを呼んで誉めたい気分だ。
往年の歌手のディナーショーのように毎年同じ内容でも、僕は見に行くだろう。それぐらい楽しい時間だった。
後驚いたのは、ステージングの上達ぶり。フジロックも見ているが、あの時よりも圧倒的にステージの構成、盛り上げ方が上手くなっていた。
この夜僕らが目撃したのはヒップホップという次元ではなく、来た観客をがっつり楽しませる、一流のエンターテイナーとしてのPUNPEEが誕生した瞬間だったのかもしれない。
まだ余韻が残っている人はモダンタイムズを自分で解説した『MODERN TIMES -Commentary-』がおすすめです。
AWA
後、おまけで2つほどライブ動画貼っておきます。
こちらは6:12あたりから。