まだ20代始めの頃、書くことを仕事にしたいと考えていた。
実際にはそこは諦めて似たような別の仕事に回ったのだが、その頃、よく考えていたのが「文体」についてだった。
例えば、
↓
今日は雨が降っている。雨が止んだら温かくなった。
雨だ。急に止んだ。そして温かくなった。
上記の2つの文章は同じことを表しているが、下の方がなんか臨場感があってかっこいい。
だらだら書くよりも、短くつなぐ。ある時、そういう手法を考えた。
そしたら、当時の編集長に言われたのが「読みやすいけど、残らない」という言葉だった。
すっすっと読めるけど、残らないなんて最悪だ。また悩みはじめてしまった。
良い文章はリズムとグルーブ感が大事
結論なんて出ないまま、月日は流れていった。
それからずいぶん経って、村上春樹の「翻訳夜話」を読んだ。
柴田 元幸さんとの対談形式で村上春樹の翻訳手法について語っている内容だ。
だが、中身としては完全な村上春樹の文章の書き方、小説論を語っていた。
その中で出てきたフレーズが、良い文章とは「リズムとグルーブ感が大事」という話だった。
僕が短い文章を使うことで意識したのは、リズムだった。
そして、そこに足りなかったのはグルーブだったのだ。
いや、そもそもグルーブってなんだろう、と思ったら、それは文章の長短、句読点の使い方、そのすべてを駆使して読み続けさせる力なんだろう。
そして村上春樹はそれを「若いころにジャズ喫茶をやってジャズを体に染み込ませて身に着いた」という。
さらに、そのグルーブ感というのは「無理な人には一生無理」だという(なんてこった。。)
文体のリズムとグルーブ。そんなのすぐには掴めないが、ブログを書いている人にとっても「良い文章」というのはずっと課題であり、そういう意味でこの言葉は非常に示唆に富んでいる。
春樹作品の中では知名度は低いが、タイトルとは違って、村上春樹の文章についての考えが分かる隠れた名作だと思う。