ずっと見たかったドラマがある。フジテレビ深夜番組の黄金時代に放送されていた、「3番テーブルの客」という番組だ。
当時のフジテレビはかなり実験的なことをやっていたが、その中でも異色の作品がこちらである。
何が変わっていたのか、それは「同じ脚本を演出家が変わるとどうなるか?」というテーマだったからだ。
つまり、ストーリーは毎週みている視聴者なら、みんな知っているのである。
まるで「まんじゅうこわい」を5人の落語家がやる、みたいな設定だが、これが見事に毎回違った。
「王様のレストラン」の人がやれば、王様のレストランになり、「北の国から」の人が演出すれば、やはり「北の国から」になるのだ。
演出家の手腕と個性、いわゆる「色」というのをまざまざと見せつけられた番組だった。
蜷川幸雄や伊丹十三も演出
三谷幸喜の脚本はけっこうシンプルである。別れた夫婦の一場面を描いたものだ。
だが、演出する人間がすごい。
映画監督でいえば、井筒和幸、伊丹十三も出ており、ドラマでは、「北の国から」の演出家、杉田成道、「深夜食堂」でも監督をやっている松岡錠司、異色なところでは、木梨憲武や蜷川幸雄も出ている。いま観ると、本当に豪華な顔ぶれである。
出演者も藤木直人、鈴木保奈美、高橋克実、今井雅之、柳葉敏郎、草刈正雄、西村雅彦、黒木瞳なんてけっこうな人が出ていたのだ。
記憶の残る2つの作品
この中でも印象に残ったのが2つの作品だった。
1つは杉田さんの回だった。
上杉祥三、桃井かおり、岡田眞澄という北の国からとは関係ないメンツでありながら、内容はまさに「北の国から」。徹底的に出演者を追いこみ、セリフ一つひとつを、涙を流しながら叫ぶように語る。
圧倒的な世界だった。
だが、残念なことに三谷幸喜は気に入らなかったらしい。wikiによると
三谷は杉田成道の演出した回にはかなりの不快の念を持っているようで、後年エッセイにその点について言及している。それ以降両名は共に仕事をしていない。上記のフジテレビオンデマンドでの配信では、杉田演出の回は配信されてない上に回数ごと飛ばれている
となっている。確かにあそこまでシナリオを変えてしまうと、もはや僕の作品ではない、となるだろう。
だが、面白かった。そして、これはもうオンデマンドでも見れない。。お蔵入りだろうか。
もうひとつが緒川たまきの回だった。
若き日の緒川たまきが見せた名演技
僕は緒川たまきファンである。だが、若いころの彼女の演技は、どうにも好きになれなかった。なんとなくキャラが明るすぎたりして、地に足がついていないというか、あるべき姿を探しているような状態だった。
そんな中で、この松岡譲二の回の演技だけは完璧だった。
松岡譲二は「東京タワー 〜オカンとボクと、時々、オトン〜」を撮った監督であり、最近だと深夜食堂でも監督をしている、静と動でいえば、静の方の監督である。
しっとりとした世界観を作り上げる、松岡譲二が選んだキャストが、筒井道隆、緒川たまき、津川雅彦、前田愛という出演者だった。
おどおどした筒井道隆と、強気な緒川たまき。とぼけた感じの津川雅彦。完璧である。
緒川たまきは「相変わらず、おバカさんね」なんてセリフを言って、後年の「うそつき」を思わせる叱り上手ぶりを発揮している。
モノクロで描かれた、この古いおとぎ話のような世界が大好きだったが、長く見ることができなかった。
一度横浜の方で見れるということで、見に行ったことがあるが第1話しか見れず、落ち込んで帰ったことがある。
そんな作品が定額で見れることが判明した。2016年の8月からフジテレビで過去のアーカイブを定額で放送するサービスの中に「3番テーブルの客」が入っているのだ!
(なぜこれを宣伝しない、フジテレビ!)
無料期間があったので、さっそく加入してみたら、なんだか涙が出るぐらい良かった。
途中からずっと泣いていた。1997年の作品だから、だいたい20年ぐらい経っているのに、全く色あせていない。まさに不朽の名作だった。
それ以外の作品も見たが、これがまた面白い。素晴らしい番組である。
いまなら無料期間中にサクッと見れるので、緒川たまきファンでまだ見ていない人がいれば、ぜひ見てみてほしい。おすすめです。
ちなみにこの頃の作品で浅野忠信と緒川たまきの「タイフーンシェルター」という作品がある。クリストファードイルが監督している作品なのだが、これは未見でVHSしかなく、まだデジタルになってない気がする。こちらも気になる(VHSもってない)。。
おまけ
のちに三谷幸喜が緒川たまきと雑誌で対談をしている。この番組の影響が合ったのか、無かったのか、それは分からないけど、それをまとめた、こちらも読んでみてはいかでしょうか。