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古今亭志ん朝を全部聞いた僕がおすすめする10の演目

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落語に「王道」というものがあるのなら、まさにその道をまっすぐ歩いたのが古今亭志ん朝です。

その芸風は一声でいうと「華やか」。声の調子、強弱の付け方、間の取り方、そのすべてがまさに落語の教科書のような存在でした。

古今亭志ん生の息子でありながら正統派落語を継承する

古今亭志ん朝は、古今亭志ん生という「落語の神様」の息子というサラブレッドでありながら、破天荒な芸風の親とは全く異なる、きっちり、かっちりした伝統的な古典落語の世界を作り上げ、テレビや舞台でも活躍した「アイドル」的な存在でした。

若手にアドバイスする時には「少し(演技が)クサイぐらいで良い」と伝えたと言います。観客が聞きたい江戸の世界をあえて強めに打ち出すことで、立川談志に「唯一金を払ってみたい落語家」と言わせる境地にまで辿り着いた人でした。

僕が落語に興味を持った頃にはすでに亡くなっていましたが、ニュースは覚えていて、立川談志が「良い時に亡くなったよ」とコメントしたのが印象的でした。

2001年、63歳で亡くなった時には「最後の落語家」と呼ばれて惜しまれました。生きていればもっと名演が見れたかもしれないと思います。

しかし、手塚治の息子が「お父さんの未発表の作品はないですか?」と人に聞かれたびに「ないです。それよりも父はたくさんの作品を残したから、それをもっとじっくり読んでください」と答えるそうですが、志ん朝の場合も、早く亡くなったことを嘆くよりも、今残された演目を聞くことで、その魅力である「江戸の風」を全身で感じることができるはずです。

ここでは音源として残された志ん朝の落語をすべての演目を聞いた僕が、おすすめする10の演目を紹介します。

軽めの笑える話

百川
あらすじ
江戸の料亭「百川(ももかわ)」を舞台に繰り広げられるズレ落語。百川の百兵衛(ひゃくべえ)は田舎のなまりがとれない奉公人。ある時、威勢の良い魚河岸の若い衆がお店にやってきた。若い衆は、祭りの時に隣町から借りた四神剣(しじんけん)を遊ぶ金欲しさに売ってしまったため、それをどうしようと話し合っていた。客の対応に出た百兵衛は、ひどい訛りのまま「わたしく、しじんけのかけぇにんです(私、主人家の抱え人です)」と客前に登場する。それを四神剣の掛け合い(交渉)に来た人物だと勘違いした若い衆は――。

聞きどころ
最初から最後まで笑える噺。志ん朝のやる江戸っこの若い衆は本当に聞いてて気持ちが良い。

今戸の狐
あらすじ
落語家の弟子の良助が師匠に隠れて今戸の狐の彩色をすることにした。内職で隠れてつくっている良助は、夜中に寄席の売上を分けていた。そのお金の音をきいたやくざが賭場が開かれていると思って、良助のところにやってきた。狐がばれたと思った良助と賭場をやっていると思っているやくざとのズレた会話が始まった。

聞きどころ
こちらもズレ落語。途中から笑いが止まらなくなる。飄々とした志ん朝の語り口が魅力的。

若旦那もの

唐茄子屋政談
あらすじ
道楽が過ぎた若旦那が親に勘当をされてしまう。最初はお気楽だった若旦那だが、女に見放されて行くところもなくなり、ついには自殺をしようと橋から身を投げようとする。それを止めたのが若旦那の叔父さんだった。命を救われた若旦那は「今日からまじめに働きます」というので、叔父さんは野菜を売る商売に出すことにしたが――。

聞きどころ
志ん朝の魅力はやっぱり若旦那にあると思う。自分自身が落語会において若旦那だったこともあり、プライドは高いけど、ちょっと弱気な若旦那を演じさせると天下一品。若旦那ものではこの話が一番好き。

船徳
あらすじ
親元を勘当された若旦那が、大川端にある船宿の見習いになりたいと言い出した。一向にお呼びがかからない若旦那だったが、ようやく馴染みの客からの依頼があって船を出すが――。

聞きどころ
これも志ん朝の若旦那もの。名演として非常に評価が高い。志ん朝が演じると本当に江戸の景色がそのまま浮かんでくる。

名作落語を志ん朝で楽しむ

子別れ
あらすじ
かつては女房がいたが、酒乱のために離縁になってしまった大工の熊五郎。酒を止めて3年の月日が経ったある日、たまたま息子と再会する。嬉しくて小遣いをやって「今度鰻を食いに行こう。このことは秘密だぞ」と伝える。息子は家に帰るとうっかり母親に小遣いを見つかってしまって、誰にもらったかを問い詰められる。息子は「お父ちゃんにもらった」と白状してしまった。さらに息子は父親がまじめになったことを伝える。約束の鰻を食べに行く日、息子と一緒に女房もお店にやってきてしまった。突然の再会によそよそしい夫婦だったが、そんな時息子が――。

聞きどころ
子別れといえば泣ける噺。これを志ん朝が演じれば当然、感動巨編になる。笑って泣ける名作です。

明烏
あらすじ
あまりに堅物で難しい本ばかり読んでいる息子がいた。それを心配した親は、近所の不良2人に頼んで、息子を吉原に連れて行ってもらうことにした。せっかく吉原に来たのに「病気が怖い!」と言って、みんなをドン引きさせた息子。それでも相手が決まって部屋に入っていくことに――。

聞きどころ
ポイントは無垢ゆえに要所要所でひどいことを言う前半と、最後の艶っぽく変わるところが聞きどころとなるけど、志ん朝はさすがに両方とも上手い。噺としても非常によく出来ている。

厩火事
あらすじ
髪結いで男を食べさせているお崎は、男が本当は若い女の方が好きなのでは、と不安でしょうがない。そこで、仲人のところに相談しにいくと、「旦那が大事にしているお椀を割ってみろ、その時にお椀を心配したら別れた方がいい、おまえを心配したら大丈夫だ」と言う。心配な気持ちのまま、お崎が家に帰り、お椀を割ってみると――。

聞きどころ
志ん生の場合は、最後のセリフの上手さがあったけど、志ん朝の場合はお崎の演じ方の上手さに聞きどころがある。特に仲人に次々とボケをいう場面は、さすがの上手さである。

芝浜
あらすじ
腕はいいけど、怠けものの魚屋の主人。久々に魚を仕入れに魚河岸に行く。早く着いたので海で顔を洗っていると、財布を拾う。中には大量の小判があった。大金を手にした主人は家に帰ってくると、仲間を呼んで酒を飲んで眠ってしまう。目が覚めるとお金が無い。女房に聞くと「そんなものは無い夢だという」。それからは酒を断ち、心を入れ替えて働いた主人。みるみる店は大きくなった。そんな旦那に女房はある告白をするのだった――。

聞きどころ
いわゆる大ネタであるが、志ん朝は気持ちの江戸弁がある日の江戸の日常を見せてくれる。ただ、噺の上手さ、深さという意味では志ん生に軍配があがると思うが、どうだろうか?

品川心中
あらすじ
品川の遊郭にいるお染は、行事で衣替えをしなくてはいけないのに、お金が用意できない。年齢を重ねて、馴染みも来ないのだ。いっそ心中をしてやろうと、貸本屋の金蔵に声をかける。金蔵は心中の申し出をあっさりと承諾するが、いざ当日となると、怖気づいてしまう。仕方なく、お染は――。

聞きどころ
こちらも大ネタ。志ん朝の遊郭ものは、やはり遊女の上手さが挙げられる。粘りつくような遊女独特の話し方や噺の展開の仕方など、まさに教科書のような完成度に仕上がっている。

文七元結
あらすじ
借金ばかりしている左官の長兵衛の娘がいなくなった。夫婦で大騒ぎをしていると、そこにやってきたのは馴染みの女郎屋のおかみ。「娘のお久はうちにいる」という。実はお久は「私を売るからお金をください」と頼み込んできたのだ。女郎屋のおかみは「必要なお金は渡す。必ず返しなさい。その日までお久はあずかっておく、でも、一日でも遅れたらお店にだすよ」と告げる。借金返済のために50両を受け取った長兵衛だが、その帰り道に50両を無くして、自殺しようとしている若者に出会い、お金を渡してしまうのだった――。

聞きどころ
志ん朝落語で一番良いのは文七元結だと思っている。江戸っ子らしさがあふれた50両を渡すというやせ我慢。それを見事に体現したような演技は脱帽である。

おまけ

談志が志ん朝を語る動画

志ん朝の本ならこれがオススメです。