日本サッカー界において絶対的な存在である、本田と長友。
この二人に共通するのがどんなにメディアに叩かれても結局、結果を出してクラブからの絶大な信頼を得るところまで逆転する点にある。
一体どうやって解決したんだろうと、ナンバーのインタビューを読んでみたら、驚くべきことに二人とも同じ発想で危機を脱出していた。
しかも、これはもしも自分が職場での立場が危うくなった時にも使える普遍性のある考え方だったのだ。
低評価を下す所属クラブ、メディアからのバッシング
ACミランに所属する本田、インテルに所属する長友。二人ともイタリアの名門クラブにいるが、昨年は満足のいく結果を残せなかった。開幕前のチーム編成の段階から放出の噂が流れ始める。
さらにチーム内での危うい立ち位置も見えてきた。
特に長友は、開幕前の親善試合において、ベンチ外が続いたかと思えば、本来のポジションではないところで使われたり、と明らかにスタメンではない放出要因のような扱いをうける。
一方の本田は、試合には出ているが、低調な出来が続き、結果が残せないことからバッシングの対象となっていた。
二人ともイタリアから見れば外国人であり、「助っ人」という立場である。結果が残せなければ、金だけ払う存在となるので、チームは追い出そうとする。
そういうシビアな世界で二人は追い詰められていた。
それぞれ別のチームからオファーはあったという。それでも残留し、チームでの地位逆転を選んだ。
これは、サラリーマンでいうと転職するか、いまの職場でがんばるかという二者択一の状況と同じだと思う。
新人時代は良かったのに、しばらくすると、上司や先輩の中で自分への評価が低いことを知る。転職するか、しないか。サラリーマンならだれでも一度が悩む話だ。
自分の「強み」に焦点を当てる
その状況から脱するために、長友がやったことは「ひたすら練習すること」だったという。
フィジカルコーチが「もう止めろ」と怒っても「あなたは僕の今後のキャリアを保障してくれるのか?できないなら黙って見ていて欲しい」と伝えたという。
そして、なぜ監督から信頼されないかを考えた結果、その理由が「守備」にあることに気付いたという。
もともと長友は「守備での一対一での強さ」が売りであり、攻撃”も”できる選手だったのが、すっかり攻撃ばかりに比重を置いていたのだ。その考えに至った時、長友がアピールすべきポイントは明確になった。
原点回帰と気付きが長友の立場を変えた
長友がひたすら練習をした日々。それは学生時代のがむしゃらにやっていた頃を思い出すためだったのかもしれない。
フィジカルの向上というよりも、原点回帰。倒れるまで練習することで余計な思考を振り払ったのだ。
これはサラリーマンに当てはめれば、「新人時代の良さ」と言えるかもしれない。
仕事がまだできない分「元気」「素直」「なんでもやる」という姿勢だった新人時代。知恵がついて素直で無くなった現在。
そうであれば、取り戻すべき原点は、もう一度謙虚な姿勢で仕事に取り組むことかもしれない。
さらに職場での立場がきつい状況だからこそ、あえて大きな声で元気にあいさつをする、言われたことを素直に受け止めるなどの、「仕事を得た喜び」を思い出して働くことが、サラリーマンにとっての原点と言えるだろう。
そして、もうひとつが「自分の強み」に気付くことである。
職場に長くいれば、やれる領域も、頼まれる仕事の量も増えていく。その中で評価が下がっている。
そんなときは自分が何が得意で、どこで人から評価されたのかをリストアップして、そこを活かした仕事の仕方をすることが再評価につながるかもしれない。
本田にしか無い武器で立場を確立する
一方、本田の場合は長友とは少し異なる。バッシングの嵐の中にあっても「自分の代わりはいない」と状況を楽観視していたという。
さらに自分の武器について「俺はメッシみたいなドリブルはできない。下手くそだと自覚している」としたうえで「マネジメント能力では勝っている」と思っていたという。
サッカーにおけるマネジメント能力とは、練習中や試合の最中において周囲に指示を出し、状況を好転していく能力のことである。
つまり、自分が点を取らなくても、周囲を動かして勝つ。それによって「俺がいれば勝てる」という状況を生みだしていく。それが彼の状況打開策だったのだ。
そして、そこに自信があったからこそ、世界中の才能が集まるイタリアの名門チームにおいても「自分はやれる」と思っていたという。
本田の逆転法から何を学ぶのか
本田が言っていることは非常に興味深い。
なぜなら「スキルで負けても、才能で負けても生き残れる」と言っているからである。
これはスポーツの世界ではありえない発言だと思う。
本田自身、決して才能あふれる選手ではなかった。
Jリーグを飛び出し、オランダに移籍した時もそれほど話題にはならなかった。まさか将来ミランの10番を背負う人間の海外初挑戦になるとは誰も思わなかったのだ。
その理由として、彼は強いフィジカルとキック精度はあったが「足が遅く、ボールタッチが固かった」からである。特に足が遅いのは大成するためには致命的な弱点だった。
それでも彼は「マネジメント能力」があったのだろう。まずは高い自己管理能力、そしてチームを変える力を身につけていったのだ。
それは雌伏の期間であるロシア時代に身につけたのだろう。若手や先輩との話し方、普段の姿勢、どうすればチームメイトやフロントから信頼されるのか。
特にスポーツの世界は「上手いやつが偉い」世界である。点を取るか、誰が見ても上手い選手のいうことは素直に聞ける。
だが、それ以外の選手の言うことなんて、誰も聞きはしない。
その中で彼がしたのは「地味にみんなを助ける」ことだった。愚直に、守備に走り、攻めの時には最前線までダッシュする。足が遅いなど理由にならない。チャンスに走らなければ点がとれる可能性はゼロなのだ。
ここから学べることは「能力や才能で負けても勝つ方法はある」ということだ。
つまり「あいつの方が才能がある」という理由だけで、職場を変えたり、職業を変える前に、やれることがあるかもしれない、ということだ。
それを冷静に分析し、把握していたからこそ、本田は現在、イタリア中から称賛を浴びているのだ。
困難な状況を脱出するための処方箋
二人の話をまとめると、困難を脱出するために学べることは以下のようになると思う。
・「もうだめだ」と思う時こそ、原点を思い出し、何が評価されていたのかを考える
・自分にしかない武器を見つける
・自分の武器に自信を持ち、それを活かすことで信頼を取り戻すことはできる
長友と本田に共通するのは、エリートコースから外れていることである。それでいながら日本人最高峰の地位まで上り詰めているのは、上記のようなセルフコントロールができたからである。
これは仕事だけでなく、人間関係にも使える話だろう。
仲良かった人と上手くいかなくなった時、改善するためには「もともとなぜ仲良かったのか」を思い出し、その原点に立ち返ることが大事なのだ。
もしも、いま職場や人間関係において自分の立場が揺らぐような状況にある場合は、この二人の打開策をぜひ試してみてもらえればと思う。