1stバトルの声を聞いた瞬間、これまで出てきたチャレンジャーとすべてが違った。
その圧倒的な声量とスキル、なによりも気持ちで負けないメンタルの強さを感じた。
ニガリaka赤い稲妻がフリースタイルダンジョンで優勝した。
ボクはたまたまその日、観覧をしていたので、放送とは違う現場視点でレポートしてみたいと思う。
ニガリという存在
フリースタイルダンジョンにおけるニガリは、「みんなの弟」のように愛されている。
その一方で、上京したけど、お金がなくてくすぶっているという印象が強い。
ジブさんもニガリが出てきた時から「デニムの裾がボロボロでお金がない感じが出てるなぁ」というなど「イケてない」感じのイジラレキャラが定着。それもあってか、すでに2回出場して破れている。
最初は強いけど、ディスが弱かったり、打たれ弱かったり、そんな勝負が続いた。
そして迎えた3度目のフリースタイルダンション。多分、これで敗れればもう呼ばれない。彼にとって今回が最後のダンジョンになるだろう。そんなことを考えながら紹介VTRを見ていた。
Creepy Nutsの隣で観戦
私はこの日、番組スタッフの友人に招待されたため、関係者側の観覧席でバトルを見ていた。この後、バトルに出る出場者が近くにいたりする、そんな席だ。
ニガリ戦が始まる頃、気づくと、周りの人がこちらを見て指を指している、その方向を見ると、隣にR-指定とDJ松永がいた。Creepy Nutsのライブがあるのだろう。リラックスした様子でバトルを見ている。
そんな二人の反応も見ながら、ニガリの戦いに注目する。音楽が大きく、二人の会話は聞き取れない。それでも、ニガリの勝負を真剣に見ていることは分かった。
圧倒的な強さの理由とは?
とにかくニガリは強かった。それまでのチャレンジャーが皆1回戦負けしていたこともあり、出てきた瞬間から、まるで初めてサイヤ人が登場した時のような、「なんて強さだ!!」という驚きがあった。
もともと、フリースタイルダンジョンのキャスティングは、みんなジブさんサイドが担当している。毎回5人ほど揃えて収録するのだが、だいたい最後の一人は「こいつなら勝ち残って3週間ぐらい放送できる」とスタッフが期待する人を入れている。
他のチャレンジャーがあっさり負けたので、このままでは2人で1週間、3週間分も撮れない。そうなると、すぐに次の収録を用意しなくてはならなくなる。それを避けるために、最後に強い人をキャスティングしているのだ。
つまり、ジブさんはニガリに期待していた。そして彼はその期待に応えたのだ。
彼が今回強かった理由は2つある。
一つは「なぁなぁ」であることをやめたこと。それまでは「飲みに行こうと言ったよな」など、対戦相手と仲が良いことを出しながらバトルをしていた。
しかし、今回は純粋に「全員倒す」という気迫を感じた。
もう一つは攻め方の多彩さだったと思う。
例えばフリースタイルの強さを、韻の上手さ、バイブス、ディスの強さ、音楽としてのラップの上手さ、という4つに分類した時、ニガリはじゃんけんのように自らの手を変えて対応していた。その引き出しの多さが、今回の勝因だったと思う。
具体的にバトルの印象を見ていこう。
各バトルの印象
裂固
これはもう出てきた瞬間の圧倒的な存在感のまま蹴散らした印象。サイヤ人が出てきた時のヤムチャみたいな感じ。相手にならなかった。
呂布カルマ
放送で見ると接戦のようだが、現場では圧倒的にニガリだった。サイヤ人と天津飯ぐらいのレベル。呂布も強いけど、このバトルで勝てるわけない。そう思いながら見てたら、案の定、勝ったという感じだった。
崇勲
ニガリは強いがブルドーザーのように進んでいたので、ここで変化球の崇勲はありだな、と思って見ていた。それでも、止められない。そして、崇勲のディスも弱かった。この勝利ぐらいから、R-指定の結果に対するリアクションがでかくなっていた。
輪入道
ここが勝負の分かれ目だったと思う。フォークが出てたら分からなかった。
熱量の高いものの戦い。そして、ニガリは疲れが出ていた。負けるかもと思いながら見守った。
だが、彼はここで輪入道のリズムキープが一辺倒という点をついて、自らグルーブ感のあるラップを披露する。
そして、3rdバトルで先行をとることで、意表をつかれた輪入道が気持ちで負けたのか、有効なディスができずに、自らの手で勝利をたぐり寄せたのであった。
この結果には、思わずR-指定も仰け反り、隣の松永と熱く話していた。
般若
般若戦の勝利は、般若に問題があったように感じた。
ニガリがラップで「オーラが一番小さい」とディスしていたが、実際に勝つ気がない、ではないが倒す、という迫力を感じなかった。
それは「オーラが小さい」というディスに対して「そうか」と返した時に、感じた。
勝つ気がないのかなと。それは本心ではニガリを応援している気持ちからなのかもしれない。
そして、この般若戦の肝は、ニガリが「100万で音楽作りたい」と「俺にはラップしかない」と印象を与えたことだと思う。
それが勝利をたぐり寄せたのだ。
R-指定もクリティカルに驚いてはいたが、呆然という感じではなく納得だと思っていた様子だった。むしろ、般若の状態を気にしたのかもしれない。
般若は弱くなったのか?
この日のライブには、般若も出演する予定だった。だが、負けたことから「今日は般若は無しになりました」とジブさんがアナウンスした。
2連敗という結果を見れば、般若は弱くなったのか、という声が出てもおかしくないと思う。
あくまで印象だが、初代モンスターで漢がいたときの般若と、今の般若は違うように感じる。
同じ年で、地元も近い二人。冬の時代を乗り切ってようやく先頭にたった漢と般若。その漢の存在が無くなったことが、「こいつの前でダサい姿を見せれない」という気持ちを喪失させてしまったのか。
とにかくニガリのいう通り、この日の般若のオーラは小さくなっていた。
ニガリという存在
よくヒップホップは「持たざる者の音楽」だと言われる。
だが、そうは言ってもジブさんを筆頭に「スクールヒエラルキー」の上の方の人が世に出ているのは事実である。
引きこもり、クセが強い、という人もいるが、純粋に「イケてない」見た目だけど、ラップが抜群にうまい、というキャラはダンジョンの常連ではニガリだけ、と言っても良い(崇勲は見た目がユーモラスという意味でまたちょっと違う)。
よく言う「俺からラップを取ったら何も残らない」を地で言っているのがニガリなのである。
カッコつけない、ただスキルで挑む、むき出しのニガリの姿に観客は熱くなっていった。
そして、その客席の熱気は、般若でも跳ね返せなかった。ニガリは疲れていた。クタクタだった。
でも、だからこそ、その状態で般若に挑む姿は、少年ジャンプのヒーローのようにカッコよかった。
彼は手にした100万円でどんな音楽を作るのだろうか。
もしも彼がヒーローになった時、ラップのイメージはまた一つ変わるだろう。ラップが不良の音楽というポジションから逸脱できない中で、「誰でもできる、みんなで楽しめる」という物に変化するきっかけになるかもしれない。
ニガリがこのバトルのように「無心」で作った音楽がどんな音になるのか。今から楽しみでならない。