いまテレビ東京の佐久間さんのラジオで何が起きているのか?

「佐久間宣行のオールナイトニッポン0」で何かが起きている。

それに気付いたのは、佐久間さんのラジオイベントの時だった。2019年10月に開催される、このイベントの場所は下北沢本多劇場。値段は6000円。座席数は386席だった。

おっさんのラジオイベントに6000円!まじかと思いつつ、リスナーである僕は2度も申し込み、そして2度とも落選した。

平日の6000円のイベントなんて誰も来ないだろと思って申し込んだのに落選ってなんだ!と思ってツイッターを見るとかなりの数の落選祭り。どうやらけっこうな倍率だったようだ。

そして、同時に思った一体何が起きているのだろう。これは何を意味しているのだろうと。

僕はたまたま第1回目からラジオを聞いている。とりあえず言えるのは、毎回確実に面白いということ。しゃべりのプロでもない、裏方のおじさんがまぁおもしろいのだ。

いったい佐久間さんは、何をやったのか。この記事を書いているのは2019年9月である。2019年4月に始まり、約5カ月が経った「佐久間宣行のオールナイトニッポン0」の軌跡を一リスナーの視点で追ってみたいと思う。

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目利きとしての佐久間さんという存在

佐久間さんといえば、テレビ東京の深夜番組「ゴッドタン」のプロデューサーとして知られている。このゴッドタンというのは、マジ歌や、キス我慢選手権が有名だが、ベースとなる企画がない、フォーマットがないタイプの非常に変わったバラエティ番組だ。アメトーークのようにトークをするわけでもなく、常にどう転ぶか分からない、大掛かりな即興コントのような構成になっているのだ。

この番組がまぁおもしろい。アマゾンプライムビデオで見れるので、気になる方はぜひ見てほしい。

さらに、ここ数年は、ゴッドタンからブレイクした芸人が増えている。近年ならEXITや三四郎、歌手なら眉村ちあきなどがいる。

なぜここからブレイクするのか、それはゴッドタンが常に新しい人を探す、実験的な番組であり、それゆえに業界人が注目しているからだ。いわゆる業界視聴率が高い番組なのである。

そして次々とブレイクした結果、佐久間さんの目利きとして評価が高まり、現在のテレビ業界において、アメトーークの加地さん、水曜日のダウンタウンの藤井健太郎、ゴッドタンの佐久間さん、という3人がテレビの裏方の中で注目株となっているのだ。

僕自身はゴッドタンのファンなので、佐久間さんの存在は知っており(たまにテレビにも映るので)、さらにぼくは海外ドラマが好きなので、次に見るドラマに迷ったときは、佐久間さんがツイッターで「面白い」と言ったものを見るようにしていた。

そんな佐久間さんがなぜかラジオを始める、ということで早速第1回目から聞いてみることにしたのだ。

業界の鬼才はおっさんを武器に戦いを始めた

佐久間さんの引き出しには、マンガ、映画、国内、国外のドラマ、演劇、音楽などさまざまなものが詰まっている。そして、テレビ東京の有名プロデューサーである。ならばきっとエンタメ鍋奉行のような、これを見たほうが良い、これのここがポイントだ、みたいなラジオになるのかな、と思った。

だが、ラジオから聞こえてきたのは、おっさんのどでかい笑い声。一人で語り、一人でガハハと笑っているおっさんがいるだけ。

話している内容も、テレビ東京の社員がフジテレビ系列のニッポン放送に出るってなんだろうという話と、明け方にラジオが終わって、これから娘の弁当を作る話など、自虐ネタ、悲しいおっさん全開のネタだった。

また、佐久間さんのラジオの特徴は、リスナーメールなどを全て肯定すること。「あ~わかるわ~」「あるな~」と言いながら、話を展開していく。

思っていたのと違う、思いっきり、おっさんのラジオだけど、おもしろい。それが最初の感想だった。

メールを肯定してくれるからか、リスナーからのメールのレベルも非常に高いと思う。佐久間さんは「こういうのじゃないんだよ、今日のテーマは」と言いながら、ずっと映画「フルメタルジャケット」のエピソードの話をしたり、キアヌリーブスの良いエピソードが続々集まったり来たりと、リスナーに振り回されたり、もっといえば、そのメールを回してくる、スタッフに振り回されたりしながら、進行していく。

もう本当に、毎回1時間半が足りないぐらいおもしろいのだ。

何が良いのか、と思うと、やっぱりエンタメの豊富なバックボーンだろう。

例えば、先日の放送でキアヌリーブスと日本で行列のラーメン屋に行くことになったら、という仮定の話の時に

「あ~一緒に並びながら、マンガ読むかな、何読むかな、う~ん、やっぱり『ファブル』かな。それでそれ見たキアヌがハリウッドで映画化したいと言うんだろうな~」

と言っていたのだが、分かっている人からすると、このキアヌとファブルのチョイスが絶妙なのだ。やるな~と思わず、唸ってしなった。

そして、この佐久間さんのラジオの特徴は、本人も語る通り、長い業界生活で得た「ブッキング力」である。その力を生かしたゲストとの共演がまた素晴らしい回を生み出していく。

伊集院光との邂逅

その中でも1個目の奇跡は、伊集院光だと思う。

最初は伊集院光のラジオに佐久間さんがゲスト出演したのだ。

佐久間さんにとって伊集院光は学生時代からラジオを聞いていた憧れの人であり、さらに佐久間さんは自分の最初のプロデューサーデビューの時にMCとして伊集院光を起用している。

しかし、その番組は半年で終了。自らの力不足、申し訳ない、という思いもあり、それ以降、佐久間さんは伊集院さんにオファーをしていなかった。

一方、伊集院光の方は佐久間さんの活躍は当然耳に入っており、「なんで俺を使ってくれないんだろう」という思いをずっと持っていたという。

そんな二人が実はあの時、あれは実は、と語り合うともう止まらない。

しかも、佐久間さんは伊集院に「キス我慢で映画とか作ってるじゃん、なんであそこまでやるの」という話の時に「それはもう本当に伊集院さんのラジオの影響ですね。僕がリスナーだったころに見た妄想を止めない姿に影響を受けた」と語ったのだ。

こんな言葉を言われて嬉しくない人はいないだろう。

その結果、「よし、今度はおれが佐久間さんのラジオに出るよ」と言ったのだ。

この言葉は実はすごい発言である。ニッポン放送に絶縁宣言をして、TBSラジオに移り、いまやラジオの帝王となった伊集院光が、ニッポン放送の番組に出るのだ。

これに驚いたのは当事者ではなく、放送局の人間。佐久間さん曰く「伊集院さんがそう言った瞬間に外にいた大人がバタバタバタと大騒ぎになった」という。

王の帰還。当時、話題だった「ロードオブリング」のサブタイトルにかけて、ラジオの帝王のニッポン放送への出演は、そう呼ばれた(佐久間さんがそう呼んでいた)。伊集院のニッポン放送への出演はその後、実現し、見事に局の垣根を超える奇跡を成し遂げたのだった。

加地メタルジャケットで業界に激震

2つの目の大きな出来事は、アメトーークの加地さんによる、アルコ&ピースの平子に対して行った、通称「加地メタルジャケット」の話題だろう。

アルコ&ピースの平子といえば、天才肌。爆発力はあるが、すべるときは壮大にすべる男。

そんな彼が、ある時、アメトーークに出演し、見事にどすべり。しかも、そのすべったネタを何度も繰り返したことに、プロデューサーの加地さんが怒り、収録後のエレベーターホールで、フルメタルジャケットのハートマン軍曹が、おでこがくっつぐぐらいの距離で兵隊を怒るときのように、ゼロ距離でブちぎれたという。

加地さんとも親交のある、佐久間さんはこのエピソードがお気に入りのようで、過去に放送の中で2回ほどこの話をしていた。特に2回目は、1時間半の放送中、リスナーメールで、次々にハートマン軍曹とフルメタルジャケットのエピソードが届き、加地メタルジャケットをもっといじりたい、という空気をパンパンにふくらました状態で、翌週のゲストが加地さんだったのだ。

テレビ東京の社員と、テレビ朝日の社員が、フジテレビ系列のニッポン放送のラジオで対談する、という謎設定もあったが、とにかく加地さんがやってきて、事件の真相を語りだした。

真相といっても「そこまで怒ってはないけど、なんであんなことをするんだい?」と聞いたという話をしていた。だが、佐久間さん、加地さんというバラエティ界のトッププロデューサーの二人が、いま使いやすい芸人(吉村は間を埋めてくれるすごい)、これから期待している芸人(特に二人が「かが屋」の名前を挙げたのが印象的だった)を語り合った内容は、なかなか刺激的で、またいかに二人が笑いを、芸人を愛しているかが伝わってくる内容だった。

同時に、この放送は色々な余波を生んだ。とうぜん、アルコ&ピースの平子は、自らのラジオでこの出来事に言及し、実は加地さんが語った以上の失敗をしていたことを告白する。それはゲスト女優へのひどいいじりだったそうだ。

「加地さんはそこについては何も言わなかった」と平子は語った。そこで出来事の真相が分かったことが大事なのではなく、一つの事件を複数の番組で当事者が語った、ということが重要だったと思う。

またこの放送は、業界関係者の中でも話題になったようで、加地さんや佐久間さんには多くの業界人から連絡が入ったという。

こうして佐久間さんのラジオ発信で、また一つラジオ業界が動いたのだ。

豪華なゲスト陣とオークラさん

佐久間さんのラジオの特徴のひとつは、その豪華なゲスト陣にある。

初回の中井りかから始まり、劇団ひとり、千鳥、オードリー若林と、深夜3時のラジオとは思えないメンバーがゲストにやってきた。

その中でも異色だったのが、放送作家のオークラさんの回だったと思う。

そのきっかけとなったのは、ゴッドタンの放送だった。

若手芸人のかが屋が「バナナマンが好き、東京03が好き」という話になり、じゃあ、オークラさんとか、嬉しいんじゃない、と劇団ひとりが、スタジオにいた放送作家のオークラさんを紹介。かが屋が「僕らのこと知ってますか?」と聞くと「Youtubeで大体のネタ見てますよ、面白いです」と感想をいったら、かが屋が泣き出してしまったのだ。

僕自身は、オークラさんが第3のバナナマンと呼ばれている人物で、優秀な放送作家ということは知っていたが、詳しいことは知らなかった。

そのオークラさんが、佐久間さんのラジオにゲスト出演したのだ。

バナナマン、ザキヤマの売れない時代からの流れを全部見てきた男の語る言葉は本当に貴重で、いつまででも聞いてられると思うほど、お笑い好きなら、たまらない回だった。

東京のお笑い、バナナマン、東京03、バカリズムのような、関西では生まれえない笑いを一緒に作ってきた、いわば歴史の生き証人であり、超優秀な裏方の言葉は、どっしりと重かった。

個人的には、「極すれすれガレッジセール」という深夜番組が大好きだったのだが、あれにもオークラさんが関わっていたと知って、いまのゴッドタンとの共通点(ぜんぶがアドリブであり、壮大なコントである感じ)を感じてうれしくなった。

また、僕はたまたま人力舎主催の第一回「バカ爆走」を見に行っており、アンジャッシュやアンタッチャブルの初舞台も見ているのだが、その中で一番の謎がザキヤマの覚醒だった。あの時のアンタッチャブルは柴田が上手くて、パワフルでザキヤマはボケなのか、相槌なのか分からない感じで暗い人という印象だったのを覚えている。

そんな彼がどのように覚醒したのか、それをそばで見ていた人物として語るオークラさんの話は、佐久間さんも言うように「もう本書けよ」というレベルで面白かった。

重なる2つの奇跡

個人的には、伊集院光のニッポン放送への出演で、ラジオ業界に激震をもたらし、加地メタルジャケットで、テレビのバラエティ業界に「佐久間さんのラジオやべぇぞ」となって、オークラさんの登場でお笑い好きに「いや~このラジオすげぇわ」となったと思う。

もちろん、劇団ひとりや千鳥、若林のゲスト回も良かったけど、上記3人の登場が佐久間さんのラジオのすごさを決定づけたと思う。

さらに、不思議な奇跡が2つもあった。

いずれもテレビの話だが、1つめは、過去に収録した「断れない芸能人コンテスト」のナレーションで「こんな時代だから、芸能人はきっぱり断れないとだめ、いざというときに断れるか試そう」という内容で、ずいぶん前に収録したらしいのだが、これが吉本の闇営業問題のタイミングと見事にシンクロ。

「いや~狙ってないけどなぁ」と言いながら、奇跡のような企画となった。

さらに先日の放送では、EXITの兼近の過去の逮捕報道が出たタイミングで、2カ月前に収録した、暗記王グランプリが放送される。

その内容は兼近があるテーマで暗記をするのだが、その目の前で繰り広げられる寸劇を無視しなくてはいけないという企画だった。

これは過去の何回もやっている人気企画なのだが、今回は人気者になったEXITのりんたろーが酒に酔ってハニートラップに引っ掛かり、相方に迷惑はかけられない、と「引退します!」と叫ぶ内容だった。もちろん兼近が全力で止めたのだが、それは2カ月前の話。

その後、現実世界で、兼近の過去の逮捕歴が発覚、それに対して相方のりんたろーが「俺だけは彼の味方だ」とツイッターで語るなど、現実と企画が交差し始めたのだ。

放送当時は、まだほとぼりも覚めておらず、番組によってはEXITの出演を見合わせるところもあった。

そんな中でゴッドタンは予定通り放送。それに対して佐久間さんはラジオで「お笑いをやっている人間が更生できる、ということを信じないなんてありえない」と語った。

その結果、バックで使った菅田将暉の「まちがいさがし」の素晴らしさもかみ合って、感動の名作となったのだった。

この2つの出来事は偶然ではあるが、まさに持っている、神風が吹いていると思わせる出来事だった。

なぜチケットがとれないのか

これがリスナーサイドから見えている景色である。いくつも奇跡の放送があり、通常回も普通に面白い。

だが、だからといって、6000円のチケットが倍率何倍というのは一体どういうことだろう。

僕自身の心理でいうと、佐久間さんがイベント発表時に言った。

「俺がイベント?6000円?高いよ!おっさんがしゃべるイベントに誰が来るんだよ!」

という言葉を聞いて、ああ、家も近いし、これは俺がいかないとな、という気持ちになった。期待よりも同情の方が大きかった。値段は高いがお布施の気持ちで、リターンなんて考えてなかった。

この落選メールが大量に出たとき、佐久間さんはラジオで「おっさんが怒ってるんだよ、落選したって」と言っていたが、ひょっとしたらこのラジオは大量のおっさんが聞いているのではないだろうか。

佐久間さんは、ライバルにテレビ朝日の弘中アナを設定し、「ラジオやるなよ~」と言っていたが、その対弘中アナの話の中で、佐久間さんは自分のラジオでの戦略をこう語っている。

「俺はこれまで『なのに』一本槍できた。サラリーマンなのに、おっさんなのに、裏方なのに、それだけで戦ってきたんだ」

そう、佐久間さんは敏腕プロデューサーというブランディングではなく、見事なおっさんブランディングでやってきたのだ。43歳、おっさんです、娘の弁当つくってます、それが彼のキャッチフレーズだ。そして、そこに世の中のおっさんは共感したのだ。

しかも、恥ずかしい部分も平気で出してくるスタイルだ。ぼくは常々男には2つのタイプがいると思っている。それは人前でち〇こを出せる人間と、出せない人間だ。それでいくと、佐久間さんは出す時には出せる人なのだ(もちろん比喩だが)。そういう人は強い。佐久間さんは度々「もうおっさんなのよ」という。それは一見弱者のようだが、おっさんだからこそ下手にかっこつけることもない、ゴリゴリのストロングスタイルで攻めれるのだ。さすが史上最年長のオールナイトパーソナリティである。そういうところはすごい。

それでいて、攻めだけでなく、受けに回っても強い。オークラさん、伊集院光、千鳥、若林の回はいずれも話足りない、聞き足りない、濃い内容になったのは受け手としての佐久間さんの力量だろう。

会話というのは、相手の知識レベルによって、どこまで深くいくかが決まる。

芸人同士だと素直に弱みなどを出せない彼らが、バラエティ番組のプロデューサーという絶妙なポジションの人間だから安心しているのか、自分のお笑いのスタイル、戦い方について包み隠さず話すのだ、面白くないわけがない。

特に千鳥や若林がゴッドタン、佐久間さんによってどれだけ芸人として救われたかという話はまさに胸熱。そういうお笑い良い話みたいなのが、そこかしこに散りばめられているのだ。

エンタメ、お笑い愛、おっさんの悲哀、そういうものを混ぜ合わせてできた、佐久間さんのラジオは、見た目はよくないけど、やたらと美味い漁師町の汁みたいにしみ込んで来る。

ラジオというのは、パーソナルなメディアである。ラジオイベントでも無い限り、日常会話で「ラジオ聞いてる?」なんて聞くのはなかなか難しく、「世の中で俺を含めて20人ぐらいしか聞いてないんじゃないか」と思ったりする。

だが、佐久間さんのイベントに関していえば、386人収容のイベントにかなりの倍率の応募があったというから、少なく見積もっても2000人ぐらい申し込んだのではないだろうか。

それはつまり一つの現象と呼べるものだと思う。それだけの人が聞いて、お金を払おうとしたのだ。これはすごいことだと思う。おっさんが一人で話すだけなのに。

ここで今何かが起きている。それは小さな積み重ねの結果だと思うが、始めて5カ月のラジオとしては、かなり異例なことが起きていると思う。

と色々と書いたが、これは別にラジオを勧める文章ではない。

佐久間さんのラジオすごいらしいね、何が起きているの、ということに対して、一リスナーとして知らない人にお伝えするための文章である。1回聞いて、おもしろい、おもしろくないではなく、なかなかのレベルの奇跡がいくつかあった、ということを伝えたかったのだ。

聞くか、聞かないかはあなた次第だ。だが、自らをおっさんだ、と思う人にはすごくちょうど良いラジオだと思う。気が向いたら聞いてみてはいかがだろうか。

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