夏目漱石について調べていた時期がある。
その時に漱石が物語の作り方について語った言葉があって、それに感動した。
明治の人というと、古い時代の古い考え、という感じがするが、漱石はいまでいうと、東大を出て、イギリスに留学し、帰国後に東大教授になったスーパーエリートである。当時のトップクラスの頭脳というのは、現代で見てもかなりのレベルだろう。
現代でも通用する漱石の物語の作り方
その彼が辿り着いた物語の作り方とは、「物語をふたつ作って(仮にAとBとする)、Aの時系列を細分化し、順番を入れ替えてBからそれを見る」という方法だという。
原文にあったのは、もっと難しい言葉であり、なおかつ原文がどこにあったか辿れなくなってしまったのだが、要するに上記のことだったのだ。
(誰かどこで言った言葉か知ってたら教えてください)
あ~なるほど、というか、きっと脚本の世界では当たり前なんだろうけど、けっこう僕は知らなかったので、ハッとした。
例としては、たぶん漱石の「こころ」が一番分かりやすいと思う。
A 先生とKと奥様の話
B 先生と私(若者)の話
としてみれば、一目瞭然だ。Bが現在進行形の物語となり、Aが過去の話となる。Bの学生が「なにがあったんですか!」と聞いて、Aの話が小出しに出される。Aを時系列に書けば、謎でもなんでもないが、細分化され、時系列が入れ替えられているので、それがすべて謎となる。
時系列を細分化して作られた物語「永遠のゼロ」
その手法で言えば大ヒットした「永遠のゼロ」も同じ構造になっている。
A 現代で佐伯健太郎と慶子が祖父の経歴を探る
B 祖父宮部久蔵の生涯
Bの生涯の部分を細分化して、時系列を入れ替える。次にAがBの生涯の断片を集めていく。それによってBの全体像が見えて、謎解き&感動のラストという展開になるのだ。
これの何がすごいって、100年前に亡くなった(漱石が死去したのは1916年)人の手法がいまだに有効ってことだと思う。
これって有名な話なのかな、かなりすごい発明だと思うけど。文学の裏の世界で脈々と語り継がれている、とかそんな感じなのかね。汎用度がとんでもなく高い物語の作り方だと思う。