PUNPEEの「MODERN TIMES」はなぜ特別なのか?

PUNPEEの「MODERN TIMES」の発売から約1ヵ月が過ぎた。

日本語ラップは、1996年から聞いているのでもう20年ぐらい聞いているが、ここまで特別なアルバムは初めてだ。

一曲ずつのレビューに入る前に、せっかく長いこと日本語ラップを聞いているので、このアルバムがなぜすごいのかを歴史的な立ち位置から書いてみたいと思う・・・と思って書いたらすごく長くなったので図にしてみた。

この3つの図でなんとなく分かるかと思うが、いま日本でラップをやろうとすれば、日本語ラップのシーン(文脈)の流れに乗るか、それ以外では売れたキックザカンクルーやリップスライムみたいに、ヒップホップ特有の「ヤバい音楽」の要素を排除して、明るい部分を使うか、そのどちらかになる。

また図に入れなかったが、日本語ラップの問題は、ハードコアでアンダーグランドな路線と、売れた人たちとの間の溝が少なくともリスナー側にあることだ。

またやっかいなことにヒップホップには「セルアウト」という言葉がある。売れるために変わることだ。

PUNPEEのフックで歌うようなスタイルは場合によってはセルアウト批判の対象になってしまうのだ。

そんな状況の中でどうするか。

彼はソロアルバムの話がレーベルから出た時「最初は思いっきりやって、すべってやる!と思った」と語っている。

確実に売れる方法よりも、自分らしくやろうと思ったのだろう。そんな思いで、全部吐き出そうと作ったアルバムだったが、ギリギリのタイミングで発売が1週間延期となった。

その理由について彼はインタビューで「バトルブームに言及した曲をやめて、ビートだけがあった『タイムマシーンにのって』と差し替えたから」と語っている。

それによって、日本語ラップシーンからも距離を取った。それは結果的に非常に重要な決断だった。

バトルブームを批判すれば、ラッパーからアンサーが来る、それがヒップホップのルールだ。そこを避けつつ、自らの高い音楽性だけを提示する。

そのことでガガーリンが月にアメリカ国旗を立てたように、PUNPEEというジャンルを音楽業界に打ち立てることに成功したのだ。

この絶妙な立ち位置こそが、このアルバムを特別なものにしていると思う。

さて、ここからはアルバムの全体像、および各曲について彼がインタビューなどで語ったことを中心にまとめてみたいと思う。

アルバム誕生までの道のり

PUNPEEのキャリアは長い。大学を中退し、板橋録音クラブのバックDJとしてキャリアをスタートさせたのは2002年のことだった。アルバム発売から15年も前の話だ。

2009年にPSGとしてアルバムを発表し、その後はトラックメイカー、客演、プロデューサーの仕事が増えていった。

そして、2016年の暮れに「30代はほどほど」で宇多田ヒカルと共演を果たした。

その達成感と何とも言えない気持ちから、3ヵ月ほどウォッカを毎日飲んで引きこもる日々を送っていたという。

次は自分のアルバムだとレーベルから言われた時の心境について聞かれると「違うんだ。俺は客演を上手くやったからここにいるんだよ」と笑いながら話していた。

youtubeのイベントでアルバムについて語るPUNPEE

だが、とりあえず自分のアルバムを作ろうと決めた時、彼の頭に一つのアイディアが浮かんだ。

過去、未来、現在を行ききするアルバム「モダンタイムズ」

アルバムを作る時に今を描こうとしたら、そこにあったのはポジティブではないトピックスばかりだった。そこを避ければ「リアルじゃない」と言われてしまう。

それを避けつつ、飛躍する方法として彼が採用したのが、2057年という未来を設定し、そこから今を語ることだった。

PUNPEEがついにアルバムを出すといった時、ツイッター上にあり共感したのは「日本語ラップ史上最もハードルの高いアルバムになる」という言葉だった。

そのプレッシャーをはねのけたのが、71歳になり、すで「PUNPEE」という名前は2代目に譲り(ヒップホップ界初の襲名)、アルバムを生涯で3枚出した自分に過去の成功体験として1stアルバムを語らせる、という出だしだった。

それを決めた時、このアルバムの基本構成が決定した。2017年春のことだった。

「2057」

声は青二プロダクションの声優、麻生智久さんが担当している。

まるでディズニー映画のようなバックコーラスに乗せて、揺りいすに座りながら、穏やかなおじいさんがインタビュアーを相手に昔話をしている。

40年後の未来ではヒップホップは、すっかりポピュラーな音楽となっているようだ。

こうやって未来の視点で始まり「最初の曲は~」と始まるのが、2曲目の「Lovery Man」である。

「Lovery Man」

トイレの水が流れて、元気が無いpunpeeがラップをする。これは吐いた後という設定。

かつて渋谷のクラブで飲んで、酔いつぶれて気づいたら板橋区の公園で寝ていた時、「この設定はアルバムで使える」とぼんやり思ったという。

出だしのコーラスを担当している「こども探偵団」はライムスターのマミーDの2人の子どもか、マミーDの弟でラッパーのKOHEI JAPANの子どもも含む2人なのか、ツイッター上で議論が分かれている。「兄弟でラッパー」という意味でPUNPEEと共通点のある坂間兄弟の子供の可能性も確かにあると思う。

インタビューでは「ある有名ラッパーのお子さん」と言っていた。

そして、肝心のラップの方は二日酔いという設定なので、グダグダしている。俺がやらなくても、弟(ラッパーの5lack)もいるし、KOHH君もいるし、tofubeatsだっているし、と言い訳がましくいうが、「ひまだし、アルバムでも作ろうかな」と作業にとりかかる。

個人的には歌詞の中の「メガネとって、髪揃えなきゃ 俺ってだれも気付きやしないから」ってところで、よくタモリがサングラスとって髪型変えたら誰も俺だって気付かない、だからラーメンの行列も並べるといっていたことを思い出す。

「見渡す限り皮肉なこんな世界じゃ 皮肉な曲は笑えないしな」

ということで、二日酔いから目覚めたpunpeeが明るい方面へと足を進める。

happymeal

起きあがってシャキッとしたpunpeeが、いよいよスピーディーなラップを展開する。

happymealとはマクドナルドのハッピーセットのこと。

歌詞カードに描かれているイラストはポップコーン。いよいよpunpee劇場が始まる。用意はいいかい?

そして、エンドロールまで席を立つな、つまりHeroまで聞いてくれ、ということだろう。

この曲で好きな歌詞は「この世界の仕組みを深く知れば知るほど バカでいることはもう出来なくなるけど」。適当にやって、あれ、できちゃった、なんていうニヤニヤした男を装い、お隣さんより凡人では「年金入金はちょっとタンマ」なんて自虐ラップに終始していたpunpeeだが、もうバカではいれないのだ。

覚悟して前に進む。どこに行くのか? それは宇宙だった。

宇宙に行く

こんなに中毒性の高い曲は久しぶりだ。

1~3曲までは未来から過去を語る、目が覚める、ラップで準備はいいか?と聞く。

その次が宇宙である。そう来たか、となった。

「宇宙に行く 君を連れ去って
地球のことはどうでもいいのさ」

もう安倍政権のこととか、フリースタイルブームとか、どうでもいいのだ。

とにかく、オートファクシミリなのだ。

火星とか冥王星とか行って、楽しい、という世界だ。

気になるのはツイッターなどを見る限り、ライブでこの曲をやっていない点。

僕はその理由をサビのボーカルにあると思っている。これってpunpeeの声じゃなくない?
なぜかずっと「たま」の知久さんだと思ってた。

でも、クレジットが発表されて名前が出ないのでやはりpunpeeかな、と思っている。

ではなぜライブでやらないのか。謎は深まるばかりだ。

Renaissance

これは毛色が違う。もともと彼のミックスCD「Movie On The Sunday」に入っていた曲で、彼の代表曲であり、ライブでみんなが大合唱するアンセムといえる曲だ。

この曲が飛びぬけて出来が良いので、ある時期まで「punpeeはRenaissanceの一発屋」と思っていたら、今作ではそこまで目立たずにすっぽり収まっている。

「Movie On The Sunday」時代の本で言ってたコメントを見ると、アルバムの最後に出来た曲で、お風呂の中で歌詞が浮かんだという。

やっぱり何度聞いても名曲である。

Scenario (Film)

この曲をアルバム発売前の2017年の7月のフジロックで初めて聞いた時は「ポップ過ぎる」と思った。

でも、いまじゃ一番のお気に入りだ。

リリックにおいては「僕の仕事は休日も平日 だからか君に会う日が休日 だから君自体が休日」という完璧な歌詞を残している。

このpunpeeのおなじ言葉をちょっとずつずらしながら核心をつく歌詞は最高。もうこれだけで天才の仕事である。

それにしても問題はフックである。

「Baby Baby いまもし君がそのセリフを口にすれば ドラマの視聴率はまだ下がるから止めておこう」ってなんだ。

ここで設定されている、お相手は新垣結衣とか、そういう連ドラの主演クラスなのか。

もし、進行中の話なら、なかなかの爆弾発言だと思う。

インターバル

ここでまたおじいさんになったpunpeeが40年後に合法となったマリファナ?を吸いながら登場。

この区切るタイミングは絶妙である。正直最初の流れはポップすぎる。

ここから第2部、ドープなヒップホップ編が始まる。

あの人がいると背筋が伸びたもんだ、と言ってPride feat. ISSUGIに突入する。

ちなみにPUNPEEとISSUGIの関係性については、PUNPEEのブログに彼がISSUGIにインタビューしたものが読むのが一番早いと思う(テープ起こし大変だったろうなぁ)。
http://ippansiminsimin.blog101.fc2.com/blog-entry-8.html

Pride feat. ISSUGI

ここでビートの太さが急に変わる。ビート提供者はUSの第一線で活躍するノッツである。

これまでのファンタジーの世界からリアルが出てくる。

耳に残った歌詞は「一応 俺もミラーボールに魅せられた人種」という言葉。

自宅で音楽制作する「パジャマMC」ではあるが、夜のクラブに足を運び、渋谷のサイファーにも弟と参加したヘッズだぞ、というのを端的に語っている。

P.U.N.P

ちょっとクセのあるトラックに乗せて「これなきゃ何やってたんだろうな」「このアルバムが酷評されたら全部買い取る!」と本音を吐露している。

歌詞の中の金田君はかつてPunpeeが作った「P.U.M.P~駄菓子売ってハスリン~」からきている。

Stray Bullets

このアルバムは、プロモーションの時点でもアルバムを購入して裏にある曲目を見た時点でも客演が表示されていない。

きっと「聞いて驚いて」という意味だと思うが、そういう意味ではこのStray Bulletsが一番驚く。

あのPSGが揃っている。

それぞれが好き勝手ラップしているが、GAPPERの「あの日クールだったラップヒーロー達は 今やどのステージでも見当たらないな」は、slackのhot cakeにある「あの日クールだったMC達は 今じゃどのクラブでも見当たらないな」のオマージュだろう。

GAPPERの「PUNPEEさんはいますか? slackさんは怖いんすか?なぜ俺に聞く?」って歌詞が好き。これは普段の会話でツカミみたいに言うのでPUNPEEが「それラップにすれば」と言って入れることになったと言う。

そして、古い日本語ラップファンをニヤリとさせるのが「一点突破、俺がヒップホッパー」の歌詞。

ご存知、ジブさんの「Mr ダイナマイト」のフックである。ドラゴンアッシュとの共演で注目を集めたジブさんが満を時してミュージックステーションで披露した曲で、日本語ラップファンは正座して見たら、なんか微妙なフックだったやつだ。

「東京生まれ ヒップホップ育ち」を生み出した男とは思えない、日本語ラップ史に残る残念なフレーズ。それをここで持ってくるチョイス、素晴らしい。

Rain

この曲の注目は女性コーラスは誰なのか?と言うこと。ライブでは一十三十一が歌ったそうだが、「アルバムでは別の人」と発言している。きっと何年後かに明らかになるのだろう。

夢のつづき

アルバム発売から1カ月が過ぎた頃、一番好きだった曲。

下北沢でテキーラ26杯飲んで死にかけて、あの頃から見たら、いま悪くないよね、と言う話なんだけど、こういう「今だって悪くないよ、視点を変えれば楽しいよ」って言うのはPUNPEEがずっと言い続けているメッセージ。

あと、バックDJをしている原島みちよしさんがラップしている。

タイムマシーンにのって

夢のつづきで、ややメローになったところで、流れるのが「タイムマシーンにのって」。ポップ過ぎる気もするが、ライブでフックをみんなで歌うと気持ち良い。

これの途中で流れる「か、か、か、か」っていうのがたまの石川さん(ランニング)みたいだな、と毎回思う。

歌詞の中でバックトゥザ・フューチャーのネタを入れているのが映画好きのPUNPEEらしくて、ニヤリとさせられる。

Bitch Planet feat. RAU DEF

いま一番好きな曲。PUNPEEの弟のような存在であるRAU DEFが乱入してラップをする。

個人的にはPUNPEEの才能が開花したのは、RAU DEFの「DREAM SKY」からだと思うので、そういう意味で彼がPUNPEEの1stに出るのは納得。

PUNPEE自身は「RAU DEFは唯一「アルバムやっているなら出たい」と向こうから言ってきた。悩んだけど、断れない俺の性格を象徴するのが彼だと思って、ああいう形で出てもらった」と語っている。

あの「どうも、ラフデフでーす」っていう小芝居も大好き。

Oldies

このアルバムの締めとも言える曲。

フックの「たとえば未来が すでにあるとして だけど僕は あがき進んでいくのだろう 時は人をなじって時に振りまわすから すべて笑い話になればいいな”Oldies”と」がPUNPEEのこのアルバムを通して伝えたいメッセージの全てだろう。

暗い未来の話はいいよ、少子化とか、年金破綻とか。そういう未来が決まっていても、それでもあがき続けるんだと。

なんて素敵なメッセージだろう。

未来や宇宙を旅して帰っていく、それはまるでディズニーランドでお土産を両手に持って門へと向かう帰り道のような素敵な時間を過ごした、という感覚が体に残る曲だ。ツイッターでこの曲で泣いたという声が多かったのも納得の締めである。

Hero

この曲はかなり前にラジオで発表していた曲で、アルバム発売前のツタヤ限定CDにも収録されていたが、バージョンが変わっており、最後の歌詞が増えていた。

アルバム発売当初のツイッターではOldiesで締めたのに、なぜHeroがあるの?という声があったが、PUNPEE自身は「これはエンドロールの曲です」と語っている。

古い日本語ラップファンとして言っておきたいのは、

ガキの頃 憧れた
スーパーヒーローみたいに
ドンピシャじゃないけど登場

は雷のリノのR.L II「ガキの頃 憧れた スーパーヒーローのように ドンピシャのタイミングで登場」のオマージュ。

歌詞の「傭兵からの饒舌」がアメコミのデッドプールのことだったり、と要所要所にPUNPEEのアメコミ愛が詰まった曲でもある。

まとめ

びっくりするぐらい長くなってしまった。。6000文字を超えている。それぐらい語れるアルバムだってことだろう。

ちなみに、上で紹介した「P.U.M.P~駄菓子売ってハスリン~」の最後にPUNPEEは「映画監督になりたい」と言っている。

映画監督になりたくて、暇なレンタル屋でバイトしながらひたすら映画を見まくり、アメコミが好きで、ヒップホップが好きな青年が、その全てをごちゃ混ぜにしながら、一つのアルバムという形式にまとめあげた。その手腕が素晴らしいと思う。

そしてもう一つ言えるのは、裏方として活躍し、自分のアルバムを出していない稀有なラッパーというキャリアの全てに意味があったと言えるアルバムになっている点も特筆すべき点だろう。

プロデューサーを経験していたから、自分をどう配置するのかが見えたのだろうし、客演を数多くやったから、誰をどこに入れるかが自然に見えたのだろう。つまり、集大成だったということだ。

さて、次はどうなるか、いつ出るのか。もう楽しみにしている自分がいる。

それにしても彼の曲の高い中毒性と、聴き込むことで好きになる曲が変わるという現象の秘密はなんなんだろう。それを考えながら、今日もMODERN TIMESを聞こうと思う。

おまけ

この曲には7つの謎が仕込まれていると言われている。ブックレットにイースターエッグとして7つのチェックボックスが描かれているからだ。

PUNPEE自身は全部の謎をといたら「限定音源についてラップした「限定音源」っていう曲をあげる(ネットにあげずに言ったら)」と語っている。

そのうちの2つは判明している。

1、隠しトラック

これはCDプレーヤーにアルバムをセットし、1曲目を巻き戻すと流れる。内容は曲ではなく、モノローグ。パソコンではできない。

2、歌詞のスペシャルサンクスを縦に読む

父は「ち」という風に頭文字だけ読むと、文章になっている。

後の5つについては、数年後に明らかになるものもあるだろうし、下手したら2057年になったら分かるかもしれない。

それも含めて、我々は彼の手の中にいるのである。

当ブログは「STORK」を使っています。

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