日本ヒップホップ史上もっとも過少評価されているグループ STERUSS(ステルス)を語る

B-BOY Parkの観客席になぜかホームレスのおじさんが紛れていた。

するとそのおじさんに対して、先ほどまでステージに上がっていた若者が近付き、耳元で何か話している。

いや、ラップをしている。フリースタイルだろうか。ステージの音にかき消されて何を言っているのかは聞こえないが、手の動きからしてかなり激しくラップをしているみたいだった。

この光景に2つの意味で驚いた。一つ目は、たまたま来た人でもヒップホップファンにする、例えホームレスのおじさんでも、という姿勢。そして、もう二つ目は、ステージの興奮そのままのその圧倒的な熱量だった。

そのラップをしていたのが、ステルスのCRIME6(クライム6)だった。

真夏のジャムという名曲

B-Boy Parkのホームレスへのフリースタイルに魅了された僕は、もう一つのことが忘れられなかった。B-Boy Parkで聞いた「真夏のジャム」だった。

探すと、「白い三日月」というアルバムに収録されているので、早速聞いてみた。

ブッダブランドの人間発電所の最初のあの不穏な音は、鈴木勲さんの曲からサンプリングしているのだが、その鈴木勲さんから直接サンプルクリアランスをとりつけた「真夏のJAM」。

Youtubeにも上がっているので聞いてみると、出だしで「あ、人間発電所だ!」となる。

そのまま聞き続けていると、5分ほどで印象的な軽快なピアノが始まる。それこそが、真夏のJAMのサンプリング部分だった。Everything Happens to Meという曲だった。

つまり、「Blow UP」というレコードが親だとすると、人間発電所と真夏のJAMは兄弟のような存在なのである。好きな2曲がつながるのは嬉しい。そして、そういうことを抜きにして、この曲は素晴らしい。

まず詩が良い。

何かを捨ててまでも立ち向かう We Are ステルス 醜いアヒルさ

というクライム6の出だしに心をわしづかみにされる。

直線的なクライム6のラップに対して、やや曲線的な、からみつくようなラップをするベラマツ。そして、ずっとアルバムを聴いていると、DJが非凡なことに気づく。それがDJ KAZZ-Kだった。

2MC、1DJというミニマムだけどちょうど良い組み合わせ。

すっかり夢中になった僕は、ステルスを聞きにイベントに行き、2MCが介護士と高校教師ということを知る。働きながらラップする。しかもけっこうな堅気な感じ、というのも異色だった。

彼らのライブはいつも熱かった。曲の良さよりも熱が真っ先に伝わってくるライブだった。

のちに彼らのブログで、ユウザロックと弟子ぐらいの勢いでかわいがってもらっていたことを知って、その熱量が誰からのバトンかを知った。

洗練された音楽と、熱のあるラップ。完璧な組み合わせだった。

待望のアルバム「円鋭」

白い三日月があまりに名盤だった結果、次に出すアルバムのハードルがあがった。そして、アルバム「円鋭」が出た。これが彼らのターニングポイントだったと思う。

アルバムは良かった。でも、何度も何度も聞き返すタイプのアルバムではなかった。

擦り切れるほど聞いた白い三日月とは何かが違った。気合がから回ったのか、言うべき言葉が減ったのか、20代後半という年齢のせいか、とにかく良かったけど、名盤ではなかった。

そして、次第にステルスという名前は聞かなくなっていった。

DJ KAZZ-Kが忙しい。仕事をしている二人が忙しい。同じクルーのサイプレス上野とロベルト吉野の露出が増えるのに対して、ステルスが揃うことが減っていった。

いまも活動はしている。新曲が出れば聞くが、真夏のJAMは超えてないと思う。

でも、決して忘れられてしまうような存在ではない。専門誌の表紙を飾るようなタイプではなかったが、それでも、彼らはかなりスペシャルな存在だったのだ。

僕とステルス

僕はヒップヒップは好きだが、ラッパーやDJの方と直接絡むことはない。

例え目の前にいても距離を取るタイプだ。

でも、例外的に話したのは、ステルスだった。彼らが全員同い年というのもあるだろう。なぜか特別なグループだった。

DJ KAZZ-Kとはmixi時代につながり、何度かメッセージのやりとりをした。

忘れられないのは、「僕らにとっても『真夏のJAM』は特別な曲、ずっと大事にしたい曲です」という言葉だった。

クライム6とは、クラブのトイレに2人だけの時があった。

その日はライブが聞けず、どうやらもう終わったようだったので「もうステルスのライブは終わったんですか?」と聞いたら「おわりました、ありがとう、俺らのホームのONEに来てよ、ぜひ」と言ってくれた。その後、子どもができてONEには行けず、約束は果たせなかったが、あの時握手した手(手は洗った後だったと思う)と笑顔は忘れない。

いま思うとポエトリーリーディングに近い空想的な歌詞の世界観とヒップホップ的な仲間や地元という要素とのバランスが6:4ぐらいだった「白い三日月」に対して、空想的な世界をより推し進めた「円鋭」はやはりやり過ぎだったのかもしれない。

ほぼ解散かと思われた時期もあったが、いまも活動を継続しているステルス。ほぼ同年代の彼らはいまどんな境地で次にどんなラップをするのだろう。

僕はあまり人を好きにならないが、一度好きになるとずっとファンであり、止めることはない。

だからこれからのステルスもずっと新曲が出れば聞き続けるだろう。

後からヒップホップを聞き始めた人にとっては、聞くべきリストに入っていないグループかもしれない。

でも、日本のヒップホップの歴史において彼らの存在は決して小さくない。「白い三日月」を何度も繰り返し聞いた人は多いはずだ。ガグルと同じぐらい僕は評価している。いや、ガグルがクールな印象があるのに、たいしてステルスは熱、僕が好きな熱いタイプのグループだ。

あのB-BOY-PARKのホームレスへのフリースタイルをどれだけの人が見ていたか分からない。ひょっとしたら僕だけかもしれない。あれはB-BOY-PARKで見た一番良い場面だった。

目撃した僕だからこそ語り継ぎたいと思う。ステルスという最高のヒップホップグループを。

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