伝説の4コマ漫画「ネ暗トピア」を語る

ネ暗トピアといえば、いつもある光景を思い出す。

それは中野という町に「サイド」というバーがあり、「クラシック」という喫茶店があった頃の話だ。今から20年ぐらい前、たまたまバイト先で仲良くなった人に僕はすっかり魅了された。

まだ21歳だった僕にとって、3つ上のその男は大人の色気のようなものを漂わせ、話す内容は文学ととロックと、なぜか、かわいいものが好きな人だった。

その友人を仮にユウイチと呼ぼう。ユウイチが「中野の先輩」と呼んでいたのが、佐藤さん(仮名)だった。

僕は21歳だったが、ユウイチは24歳、佐藤さんは31歳ぐらいだった。

二人ともずっと酒を飲んでいたし、怪しげなバーに行ってはニヤニヤしていた。

月2万の安いアパートで暮らす日々。ほど居候する勢いで僕はTの家にいた。すると、佐藤さんが窓の外から「お~い、サイド行くぞ」と声をかけてくる。3人で中野のバーへ行く。

3時ぐらいに帰ってきて、みんなでシンプソンズを見ながら話をする。

なぜか電気はあまりつけず、薄暗い退廃した感じが心地よかった。

いつの間にか眠り、目を覚ますと佐藤さんがニヤニヤしながら「ネ暗トピア」を読んでいた。

「なんですか?それ?」

「え、これ面白いんだよ、読んでみるか」

なぜか佐藤さんは7巻全部もってきていた。肩から下げている大きめのカバンに入れてきたのだろう。全巻持ってくるって、と思ったが、読んでみると、絵は汚いが、不思議な魅力をもつ作品だった。

すべてを破壊するマンガ

「ネ暗トピア」はいわゆるカルト的な人気を誇る作品である。のちに「ぼのぼの」で有名になる、いがらしみきおの初期の作品で、4コマ漫画である。本は一時期プレミアがつくほどだったが、いまはキンドルの読み放題にも入っている。

内容はとにかくタブーはない感じ。特にエロ方面は規制も緩かったのだろう、自由にやっている。

1コマ目は比較的、ベーシックな世界観(殺し屋が人を殺そうとしている様子など)から、2、3、4コマと、とにかくその世界を破壊していく。

ペンタゴンチャートを作ったら、作画力1、構成力3、キャラ設定4、破壊力50ぐらいの感じ。

それでいて、男が飛び降り自殺したら、隣に別の場所から飛び降り自殺した女性がいて、落下しながら恋に落ちるけど、死んじゃう。その前のコマは「コノヒトト イッショニ クラシタカッタ」だったり、妙に詩的なところもある。

東北出身の作者が、地方コンプレックスを抱えたまま描いたということもあり、全体的に哀愁のようなものを感じさせながら、ひたすらギャグを繰り広げていく。

僕が一番好きなのは、男が二人部屋にいて「そろそろ寝るか」「そうだな、寝てもいいな」といって、布団を敷いて、次の日に二人でくっついて歯ブラシをしている後ろ姿というオチの4コマだ。

この寝るか、寝よっか、という会話は男同士でもする。そのすき間にある、「寝る」という隠語との境目を突いてくるのである。

こういう細かい「その視点かぁ」「そこをネタにするか」みたいなところが好きである。

松本人志のネタとの共通点

この作品を読んでいると、「ああ、きっと松本人志も好きだったろうなぁ」と感じることがある。

松本人志の笑いを一言でいうと「日常に異物を入れる」のが特徴である。

料理番組のフォーマットで、料理人の頭がおかしい。

猿の舞台をやっているけど、実は仕切っているのが人間ではなく猿。

いじめられっこを助けに来たスーパーヒーローがださい。

など、ベースは非日常ではなく、日常にある風景が出発点となる。そこに異物をもってきて、周りの人は「え?なんで」などの違和感を出しながら、コントを進行していく。

日常→異物→結果、変な世界

が松本人志のコントの特徴である。前に松本人志が映画の批評で「この映画は全員おかしいから面白くない」と言っていたが、彼のコントは逆で一人だけ異物がいて、あとはみんな普通というのが肝なのだ。

「ネ暗トピア」もそれに近いものがある。日常の出来事。例えば、定食を食べる、テレビを見てる、麻雀をしている、など普通の光景から始まり、2~4と進むうちにぐちゃぐちゃに壊す。この壊し方、さらにトータルでみると「哀愁」、もの悲しさがあるのがこの作品がただのギャグマンガではなく、「伝説の作品」にしている所以だろう。

いま見たらどう感じるのか、特に若い人や女性が見たらどうだろう、とは思う。

特に絵がきれいでも、崇高なものでもない。ラーメン屋のはじっこの本棚にあって読んだらやけに面白くて、記憶に残る、というレベルだと思う。

でも、僕が人におすすめするマンガベスト10を作ったら、入れると思う。それは「俺はネ暗トピア」を通っているんだぞ、という証明書のようなものだと思う。

電気グループなのか、人生(電気グループの前身)を経ての電気グループなのか、ナゴムレコード経てるぞ、という自慢に近いのかもしれない。

まぁ、根本的にはしょうもない作品だと思う。

でも、キンドリで1冊100円セールやっていたから全部買っちゃった。

これは下品すぎて、3歳児がいる部屋の本棚には置きたくないが、キンドルならいいだろうと思う。

もう一度じっくり読みなおそうと思う。

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