吉田篤弘を全部読んだ僕がおすすめする名作小説ベスト10

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ストーリー展開の上手さと、ずっと物語の世界に浸りたくなるような、世界の立ち上げ方が魅力的な小説家・吉田 篤弘さん。

ゆっくりと飲むコーヒー、古本屋、町の洋食屋、ラジオから聞こえる女性の静かな声、お客が少ない映画館、自転車。これらは吉田作品によく登場するモチーフだ。

そんなモチーフの数々に思わず、反応してしまう人には吉田篤弘はぴったりだ。

そもそも吉田篤弘ってどんな人?

1962年東京生まれ。妻である吉田浩美と共に「クラフト・エヴィング商會」名義で著作や装幀を行っていたが、2001年に『フィンガーボールの話のつづき』で個人としての作家デビューを果たす。

映画にもなった「つむじ風食堂の夜」を始めとする「月舟町3部作」などを中心に、短編小説の名手としての地位を確立。

日本に小説家は数多くいるが、物語の中で世界を立ち上げて展開させるそのストーリーテラーぶりは、国内でもトップクラスといえる存在。

それではいよいよベスト10を紹介しよう。

第10位 「なにごともなく晴天」(2013年)

電車の高架下1.5階に住む女性の物語。ベースとなるのは町の人びとの日々の暮らし。成長ストーリーのように何かが劇的に変わるわけではない。むしろ、タイトル通り「なにごともなく」、それでいてしっかりと物語が描かれている。この辺りの手腕は、本当に一級品。静かな喫茶店でゆっくり読みたい一冊。

第9位「78(ななはち)」 (2005年)

お得意の連作短編小説の中でもかなり秀逸な一冊。SPレコードを軸に、つながっているようでバラバラな作品が並ぶ。物語の中に町を作り、人々を動かす。読後感も抜群に良い作品。

第8位 「ソラシド」(2015年)

1986年の女性デュオ「ソラシド」を探す物語。過去のソラシドと現在が交差しながら物語が進み、核心に迫る後半から一気に読む手が止まらなくなる。ミステリー要素が濃い、吉田作品の中では異色の一冊。

第7位 「空ばかり見ていた」(2006年)

旅する床屋さん「ホクトさん」の話。12の短編集で構成されており、読み進めていくと、ホクトさんの人生が見えてくる。吉田篤弘のストーリーテラーぶりがいかんなく発揮された作品。ちょっと広めの公園に行って、芝生のうえで読みたい一冊。

第6位 「フィンガーボウルの話のつづき」(2001年)

吉田篤弘名義での初作品。ビートルズの「ホワイトアルバム」をキーにした連作短編集。ラジオ、レインコート、食堂とその後につながるモチーフが数多く登場する。

「処女作にはその作家のすべてがある」と言われるが、書きたいものの萌芽はすでにこの頃にあったんだなと気付く。何度も繰り返し読めるところが本作の魅力。

第5位 「レインコートを着た犬」(2015年)

月舟町3部作の完結編。主人公は月舟シネマの犬「ジャンゴ」。完結編だけあって、月舟町の住民が次々と出てくるオールスター感満載の作品。時代が移り変わり、町が変化していくなかで変わらないものを描いた作品。

第4位 「つむじ風食堂の夜」(2002年)

商店街、食堂、白黒の猫、雨降りを研究する先生、劇団員の女性。ショートストーリーを積み重ねながら、小さな街でゆっくりと進む物語。ほっこりする絵が頭に浮かんでくるだけに、映画化も納得。少し脳みそが疲れた夜にお勧めです。

第3位 「小さな男*静かな声」(2008年)

ラジオパーソナリティの女性と、百貨店売り場の男性。すれ違いながら交わる二人。二人をつなぐ、元校正者の女性。交互に展開する物語が交差する、吉田作品のエッセンスのすべてが詰まった傑作。

第2位 「台所のラジオ」(2016年)

ラジオがブリッジとなり、展開していく短編小説。洋食屋とソース屋のケンカなど、なんでも無い日常の積み重ねなんだけど、その小説家としての手際の良さには驚いてしまう。

これだけ見事な小説をかける人間がいま何人いるか。短編小説家としては、間違えなく一級品だと感じさせる作品。

第1位 「それからはスープのことばかり考えて暮らした」(2006年)

月船町3部作の2つめ。無名の女優とサンドイッチ屋の親子(安藤さんとリツくん)、そして求職中の男性と大家の婦人。物語のポイントは、サンドイッチとそれに合うスープ。

3部作の中でも特にファンが多い作品。もう何度読み返したか分からない。余談だが、僕はいつも無名の女優をおばあちゃんになった緒川たまきがモデルなんじゃないかと思っている。

読み終わったら、ついついスープを作りたくなってしまう名作。これがダメなら吉田篤弘は向いてないと思う。

ここに入らなかった作品としては「水晶萬年筆」、「電球交換士の憂鬱」、「十字路のあるところ」がいずれも良作! 1200部限定の「おるもすと」も持っているけど、もったいなくて読んでない。。

名作ぞろいの吉田篤弘さん。まだ読んだこと無い人は、この機会にぜひ!

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